寒空の下、
俺は今までで一番速く走った。
一分一秒、一瞬さえもったいなくて、
なるたけ速く、速く、



「 っはあ、  はあ」


急に立ち止まったもんだから、
息切れが激しい。
沖縄だけあって、まだ汗が出る(真冬だというのに)
顔を上げると、数歩先に困ったように笑いながら立っている彼女。
、だ。


「ごめん、待った?」

はあはあと息を切らせながら聞くと、
首を少し傾けて「大丈夫?」と言った。
それから俺の右手を凝視する。

「ああ、これ?」
「なに、それ」
「花火」
「え?」



「花火しよう」










パチパチパチ

火花を散らして消えてゆく花火。
真冬に花火なんて、風物詩でもなんでもない。
横目で彼女を見ると、
やっぱり悲しそうな、困ったような、そんな笑顔を浮かべていた。

(目が真っ赤だ)




「ん?」
「……なんでもない」



なによ、と言って、また無言。
沈黙が続く。
尚もパチパチと音を立てて燃えてゆく花火。
はあ、と息を吐き出せば、ほんのり白い。
ああ、冬なんだなあ。
冬だっていうのに半袖の俺は、かなり季節感がない。




「あ、終わっちゃった」

それまであった膨大な数の花火はいつの間にか減り、
残るのは線香花火だけ。
もっと買っとけばよかったな。
携帯を開いてちかちかと目が霞むディスプレイを見ると、
午後11時53分。
もうこんなに経っちゃった。
なんて時間は経つのが早いんだ。


「線香花火、する?」
「うん」


何度見ても、
線香花火っていうのは花火の中で一番綺麗だと思う。
音が立つわけでもなくて、
いつの間にか消えてゆく小さな小さな花が、
悲しくて、切なくて、なんとも言えない雰囲気をかもし出す。
隣でしゃがむに目線を合わせる。
下に垂れ下がったセミロングの髪を耳にかけてやると、
真っ赤になった目がのぞいた。



「…
「なに?」
「…」

「なによ」



「    泣くな」



本当は、こんなはずじゃなかったんだ。
泣く彼女が見たかったんじゃない。
二人で笑い合って、
「そうだ、あのとき、あんなことがあったね」
なんて思い出に浸って、
それで二人して幸せな気分になるつもりだった、のに。

目の前のは、
今までで見たことがないくらい大粒の涙をぽたぽたと落とし、
跡をつくる。



「泣くな」
「だって、さあ」
「…うん、わかってる」
「だって……ひろ…っ」
「わかってるって」



駄目だ、俺まで泣きそう。
つう、と涙がこぼれた瞬間、
俺の持っていた線香花火がぽと、と地面に落ちた。
の線香花火はとっくに消えていた。
泣きじゃくるを見てられなくなって、思い切り抱きしめた。
きつく、きつく、それで彼女が泣き止む保証もないのに、
ただ、一人じゃないことを証明するように、
腕にありったけの力を込めて抱きしめた。
それから、何度も何度もキスをした。
いっそう溢れる涙の上に、
目に、口に、髪に、
いたるところにキスを落とした。
普段言わないような甘い言葉だってあげた。
「好き」だとか、「愛してる」だとか、
考えつくすべてを贈った。
その度に彼女は息を詰まらせ、俺の目を見た。

「ごめん、ごめんね…ひろ」
「謝るなよ、大丈夫」
「もう、終わっちゃう…っ」
「 うん」


明日、
彼女は遠い遠いところへ行ってしまう。
当たり前に会えなくなる。
俺が想像する以上に遠いところ。
俺が踏み入ったこともない土地。
そんな所に彼女は一人で行ってしまう。
二人が永遠に結ばれる、
なんて保証、どこにもなかった。
なにを頼りに生きればいいのか、
どうしてこの絆をつなぐのか、
まったくわからなかった。
それでも、愛しすぎる彼女に何度も「大丈夫」と呟いた。
それで彼女が楽になるなら、
いくらでも言ってあげた。
そんなこと言っても、
泣き止むわけもなく、二人して泣いた。


「 ひろ…っ好き」
「うん」
「ずっと、ずっと…」
「うん」
「絶対、戻って、くる…から」
「うん」
「待ってて 」
「うん、わかった」
「  いい女に、なるから、ね」
「なにそれ」
「へへ…」
「じゃー、俺はいい男になっとく」
「次会うときは、お互いわからんくらいになってんね」
「おう」


目を真っ赤にさせて、
最後の線香花火を手に取った。
音もなく温かな火を灯したまま、
小さな小さな花をつくった。



「  弘樹」
「ん?」
「…ありがとね」
「…」
「今まで楽しかった」
「うん、俺も」
「ほんとに、ありがと」
「…うん」
「 愛してるよ」
「俺も愛してる」
「浮気、せんでね」
「わからん」
「まーたそんなこと言う!」
「あはは、…大丈夫だって」
「大丈夫、だよね」
「なんも変わらんよ」
「うん、そうだよね」
「いつでも電話できるし、メールだってできるし」
「…」
「会おうと思えばいつだって会えるし」
「……そっか」
「うん、そう」
「…」
「…」


ぽと、線香花火が落ちた。
それと同時にが勢いよく立ち上がり、
俺の腕を掴んだ。


「 またね、弘樹」
「うん」
「今までありがと」
「俺も、ありがと」

「大好きだよ」


それから二人は、
手をつないで二人が過ごした家に帰って、
次会うときまで飽きないようにと何度もキスをして、
体を合わせて、
さよならした。








朝起きたとき、隣に誰もいなかった。
微かに残るぬくもりに、
また涙が流れた。













君が涙で描く明日は、相変わらず頼りないから
不安な夜はそばにいよう
涙がただ止まるように


























この歌がきっかけでつばきが好きになったのです。
ひろさんは、なんとなーくですが、
すぐに同居とかしてそう(妄想)
彼女を大切にしてそう。
ひろさん好きなんですが、
なかなか夢を書かない。
長かったですが、読んでいただいてうれしいです^^*
それでは。


2008.03.08
P.S 明日は3月9日ですよ(どうでもいいの極み)
2style.net