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 そのとき。









 パチン、と音がして。






























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 視界が、白く染まった後。









「眼が、覚めた?」









 目覚めたそこは、どこかで見たことがあるような部屋だった。
 柔らかなカーペットの敷かれた床。天蓋付きのベッド。猫足の家具。フリルの カーテン。
 可憐な少女のような趣味の、その内装。

「あ、れ・・・・・・・・・?」
「っ・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・んん?」
「くぅーん・・・・・・・・・。」

 リュカが、クマトラが、ダスターが、ボニーが、順に身体を起こす。
 その様子を見て、その部屋の主・・・・・・・・・ミクソリディアは、心の 底から安堵の表情を浮かべた。

「良かった!手遅れだったら、もう、どうしようかと思ったわ!!」

 寝起きの頭に、その高い声は少しだけ堪える。
 クマトラは、見覚えのあるその顔を見て、ようやく状況を理解し始めた。

「あれ・・・・・・・・・ミクソ・・・・・・・・・?」
「その呼び方は止めて、クマトラちゃん。ミッシー、って呼びなさいよ、もう!!」

 他の2人と1匹は、未だに全く事情が飲み込めないまま、疼く頭を抱えている。









「まぁ、ちょっと座ってお休みなさいな。今、お茶入れるから。」

 全員が元通りに、はっきりと意識を取り戻したらしいことを確認して、ミクソ リディアがいそいそと自慢のお茶を淹れる準備を始める。










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 紅茶のカップが4人分、ミルクの入った皿が1枚、用意される。

「あなた達、森で、変な模様のキノコ食べたでしょう?」

 病気の人間に、その病状や普段の生活の質問をする医者のような口調で、 ミクソリディアは3人に問い掛けた。









 3人は疼く頭で、なんとか記憶を呼び起こす。

 オオウロコから、海に潜って海底を歩き続け、タネヒネリ島を目指し。
 その途中で・・・・・・・・・渦潮を操る、魔物に襲われた。
 荷物を全て押し流され、満身創痍のまま、しかしどうにかタネヒネリ島には 流れ着いて。

 そして。









「・・・・・・・・・・・・・・・・・・食べた。」

 そう、そこで確かに。
 あの・・・・・・・・・不気味な色のキノコを、口にしたのだった。

「まぁ、やっぱり!アレの仕業ね!!」

 ミクソリディアはそう言いながら、ふぅ、と1度息を吐いた。

「もうちょっと遅かったら・・・・・・・・・あなた達の心が、もう少しでも 弱かったら。危なかったわね。」

 浮かぶ冷や汗を拭いながら、また、今度は安堵の息を漏らす。
 その深刻な様子に3人は、漠然とではあるが、自分達がどんなに危険な状況に 置かれていたのかを悟った。

「危なかった、って・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・そ、そんな、ヤベェやつだったのか?」
「その、参考までに・・・・・・・・・聞かせて貰えないか?」

 ミクソリディアは、ややあって、重い調子で口を開いた。









「あれは、まぁ簡単に言えば・・・・・・・・・『幻覚キノコ』なんだけどね。」









「げ、幻覚?」

 いきなり飛び出したその名前に、リュカは思わず眼を見開いた。

「げ・・・・・・・・・マジかよ、それ。」
「頭が痛いのも、その所為か・・・・・・・・・?」
「ええ、でも・・・・・・・・・ただの、幻覚じゃないの。これがまた、 厄介なのよ。」

 はぁ、と、もう何度目かの溜め息が吐き出される。

「あのキノコが見せる幻覚はね。食べた相手の、精神の世界に影響されるの。」

 精神の世界に、影響される。
 その言葉だけではいまいち具体的なイメージが湧かず、3人は首を傾げた。

「要するに・・・・・・・・・その人の心の傷を、攻撃する、って言えばいいの かしら?」
「心の・・・・・・・・・傷?」
「そう。その人が普段、眼を逸らしている、傷。そこを、容赦無く掻き乱す のよ。」

 眼を逸らしたくなるような・・・・・・・・・心の、傷。
 さきほどよりも具体的な、その言葉に。









 ズキッ









 3人の頭と、心が、同時に疼く。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ?」
「ちょっと、大丈夫?まだ、静かにしておいた方が良さそう?」

 ミクソリディアが不安そうな顔をするが、浮かびかけた痛みはすぐに、明確な 形を成さないまま心の内側へと還り、見えなくなった。
 3人はすぐに顔を上げて、それぞれに「大丈夫だ」というサインをする。

「・・・・・・・・・そう?じゃぁ、続けるけど・・・・・・・・・。」

 ミクソリディアは少し躊躇った後、また、話を続ける。

「とにかく、その幻覚が危険なのよ。下手をすれば・・・・・・・・・精神が、 崩壊しかねないわ。」

 精神の、崩壊。
 3人は、先ほどの『もう少し遅かったら、もう少しでも心が弱かったら』という 言葉の意味を悟った。ぞくっ、と背筋に冷たい物の気配を感じる。

「その人の精神を壊して、心を失くした人間の身体を、生きたまま栄養に するのよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ。」
「なるほど・・・・・・・・・あんまり、考えたく無いな。」
「あー、チクショウ・・・・・・・・・なんか、気持ち悪くなってきた。」
「私達ならなんとか治療できるけど、それも限度があるわ。次からは、何があって も手を出しちゃダメよ?」

 3人は、ミクソリディアのその言葉を胸にしっかりと刻みつけた。









 すると。

「でもよぉ。」

 クマトラが、おもむろに口を開く。

「なんつーか、そんなヤベぇ幻覚・・・・・・・・・ちょっとくらい、覚えて てもよさそうなモンだけどな。」
「ッ!!」
「ああ・・・・・・・・・それも、そうだな。俺もどうしてか、まるで記憶に無い んだ。」
「ボクも・・・・・・・・・凄く、嫌な物を見てたような気は、するんだけど。」

 その言葉をきっかけに、3人は、自分達の記憶の中に、それまで見ていたはずの 強烈な幻覚の記憶が、ほとんど残っていないことに気がついた。思い出せるのは、 なんとなく、漠然とした嫌悪感だけ。見たもの、聞いたものは、1つとして思い出せ ないのだ。話に参加こそしていないものの、それは、傍らのボニーにとっても同じこと であった。
 ミクソリディアは、なにやら慌てたような様子で、付け加える。

「まぁ、その、強烈って言っても・・・・・・・・・所詮は、夢を見てるような ものなのよ。」
「夢・・・・・・・・・?」
「そ、ただの悪い夢。目が覚めたらさっきまで見てた夢を忘れちゃう、って、 よくあるでしょう?」
「まぁ・・・・・・・・・そうか。なるほど。」
「でもよ、なんつーか、さっき言ってたろ。そいつの精神に影響される、とか、 なんとか。」
「ホラ、普通の夢だって、その人の心に左右されるでしょう?ね?」

 何かを取り繕い、かつそれを必死で悟られまいとし、ミクソリディアは強引に その話を打ち切ろうとする。3人の頭はまだ、その僅かな不自然さに気付く程には、 立ち直りきれてはいなかった。









 そして、そんなミクソリディアを援護するかのようなタイミングで。

「ミッシー様、ただいま戻りました。」

 ノックの音が響き、ドアの向こうから、大きな影が現れる。
 入り口を潜ってきた、その姿を見て・・・・・・・・・リュカ達は、眼を見 開いた。

「うおっ!!」
「な、なんだコイツ!?」
「ワウッ、バウッ!!」
「あ、紹介するわ。お手伝いの、ハチよ。」
「どうも、初めまして。ミッシー様の下でお世話になっております、ハチと 申します。」
「あ・・・・・・・・・ど、どうも・・・・・・・・・。」

 やけにきっちりした口調で話し、丁寧な挨拶をしたそれは・・・・・・・・・ ダスターよりも背の高い、巨大な、タコだった。水兵の帽子を頭に乗せた真っ赤な 身体が、歩くたびに、ふるふると揺れる。

「あなた達を見つけてくれたのも、ハチなのよ。お礼、言っておきなさいね。」
「あ・・・・・・・・・有難う、ございます。」
「・・・・・・・・・助かった、有難う。」
「お、おう・・・・・・・・・アリガトな・・・・・・・・・。」
「くーん・・・・・・・・・。」
「いえいえ。当然のことをしたまでです。」

 そのインパクトに押され、例の幻覚のことなど、リュカ達の意識からはすっかり 弾き出されてしまった。









 人知れずほっと胸を撫で下ろし、ミクソリディアが陽気な声で言う。

「じゃ、ハチも帰って来たし、もう1杯淹れましょうか。」

 空になったカップと、ミルクの皿が、ふわりと浮いて回収される。もう1セット、 新たなカップが棚から躍り出る。

「針の話は・・・・・・・・・もう一休み、してからにしましょう。」

 ポットが、湯気を吐き出しながら、高い声で鳴いた。










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「本当に、助かった。どうしようかと思ったよ。」
「アリガトな、えっと・・・・・・・・・タコ!」
「く、クマトラ・・・・・・・・・ハチさん、だってば・・・・・・・・・。」
「いえいえ。お気になさらず。」
「ワウッ!!」









 潮に流され、行方知れずになっていたはずの荷物は、島のあちこちの海岸に 流れ着いていたらしい。リュカ達を送り届けた後、ハチはそれを集めて回ってくれて いたのだそうだ。
 荷物を受け取り、感謝の言葉を述べて。リュカ達は、出発の準備を整えた。









「よし、それじゃぁ。」
「じゃぁな・・・・・・・・・ミッシー。」
「・・・・・・・・・行ってくる。」
「ワン!!」









 そして。
 ミクソリディアと、ハチに見送られながら。









「くれぐれも、お気をつけて。」
「ええ・・・・・・・・・行ってらっしゃい。」









 リュカ達は、5本目の針の在り処へと、向かった。










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 針へと向かうリュカ達を、見送って。

「では、もう1度見回りに行ってきます。」
「ええ。よろしく、気をつけてね。」
「はい。」

 再び島の見回りに出かけて行くハチを、見送って。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。」

 ミクソリディアは独り、溜め息を吐いた。



























 ミクソリディアは、1つ、リュカ達に嘘を吐いていた。



























 リュカ達が口にした、あのキノコが見せる、幻覚。
 それは・・・・・・・・・決して、自然と忘れられるような、生半可なもの ではない。

「(・・・・・・・・・あんまり、詳しいことなんて話すんじゃなかったわ。)」

 その危険性を伝える必要がある、と感じた故の説明だったのだが、結果、 それが要らぬ違和感を与えてしう結果になった。自分の言葉を後悔しながら、また ひとつ溜め息を吐く。









『あのキノコが見せる幻覚はね。食べた相手の、精神の世界に影響されるの。』
『要するに・・・・・・・・・その人の心の傷を、攻撃する、って言えばいいの かしら?』
『そう。その人が普段、眼を逸らしている、傷。そこを、容赦無く掻き乱す のよ。』









「(・・・・・・・・・心の、傷は。)」

 あのキノコが攻撃する、心の傷。
 精神にとって致命傷ともなり得る存在である、それは、そう。

「(その人が、抱いている・・・・・・・・・心の闇、そのもの。)」

 当然ながら・・・・・・・・・攻撃される側の人間の精神に、既に内包されて いる物なのだ。



























 己の無力を、嘆く心。









 心の隅に巣食う、拭いきれぬ怨恨。









 常に心の隅に在り続ける、深い孤独。









 自らの犯した過去の過ちに対する、罪悪感。



























 人を攻め立て、追い込んで、挫けさせる、凶暴な心の闇。
 自らの心の中、敢えて何も見えなくなる程、真っ黒に染められた一部分。

 それが、幻覚の正体なのだ。









「(あんな状態だから・・・・・・・・・夢と同じように、忘れさせることが 出来たけれど。)」

 皮肉にも、キノコの余りに強力な幻覚作用のおかげで、リュカ達が催眠にも似た 状態に陥っていたが故に。ミクソリディアは意識を回復すると同時に、彼等の見ていた 幻覚を、まるで夢であったかのように忘れ去らせることが出来たのだった。
 もしも、目覚めた彼等が、精神が安定した状態で、正面から対峙したとしたら ・・・・・・・・・その闇の余りの強烈さに、心が折れてしまうことだって有り得る。

「(忘れた方が、良いのよ・・・・・・・・・ただの、幻覚。それでいいの。)」

 ミクソリディアには、リュカ達がどんな幻覚を眼にしていたのか、想像すること も出来ないが。

「(思い出したら・・・・・・・・・辛い、だけだもの。)」

 リュカ達に幻覚の正体を明かし、その記憶を呼び起こし・・・・・・・・・それ と、正面から向き合うことを、させることなんて。
 到底・・・・・・・・・考えられるはずも、なかった。



























 彼等は針に近づき。やがて、自分は消える。



























 光の粒となって消えていく、自分のように。



























「(今日見た、悪い夢も・・・・・・・・・全て、お忘れなさい。)」



























 誰も居ない部屋の中。自らの心の中で。



























 ミクソリディアは、小さく呟いた。




































 暗いですね。すいません。

 最初は、タネヒネリ島で見た幻覚ってどんなモンだったんだろうな、という 程度しか考えてなかったんです。
 それが、何度も考え、そして書き進めるうちに、いつの間にかこんなことに。
 たまにゲーム中に出てくる幻覚のイメージがほとんどブッ飛んで、ほぼ 自分のイメージだけで書いてました。
 自由に病み過ぎです。

 ゲーム中の幻覚といろいろ食い違ってたらごめんなさい。
 イメージ壊してしまったら更にごめんなさい。

 そういうときは、こう、さらっと忘れて頂けると助かります。



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