*輪廻転生


「お前は輪廻転生って信じるか?」


それまではずっと何かを考え込んでいるかのように無言だったと言うのに、突然口を開いたかと思えばこの台詞で。普段であれば彼女の言葉には直ぐになんらかの答えを返すのだが、今回に至っては思わず躊躇してしまった。
そんな自分を見上げてくるのは透き通るようなブルーの瞳――相変わらず綺麗な色だ。
つけたままのサイドテーブルのライトの光を帯びてキラキラ輝くその瞳に引き寄せられるように手を伸ばし、金色な髪に指を差し込む。
毛先まで手入れの行き届いているそれはさらさらと指の間を滑り落ちていった。
すると、質問に答えないのが不満だったのだろう(私としては答えに悩んでいただけなのだけれど。)、すらりとした指に額を小突かれた。
「聞いてるのか、マイルズ」
髪を触られるのは嫌いじゃないらしく、私の手を振り払うことはせず、その代わりに非難めいた視線を投げ掛けてくる。
「聞いてますよ?…輪廻転生と言うと、再び生まれ変わる、とか言うあれですか?」
昔―…確か、学生だった頃に、何かの本で読んだことがある。
その時はそう言うこともあるのかもしれないな、と言う程度で特に気にも止めなかったのだがそれがまさか今になって、しかも目の前にいる人物の口から再び聞くことになるだなんて思ってもみなかった。
「そうだ」
「それにしてもいきなりですね」
言いながらも今度は頬へと指を滑らせ、赤みの引いた白い肌の滑らかな感触を楽しむ。冷気に触れているせいだろう、既に少し冷たくなっている。
指が耳にも触れるからか時折擽ったそうに目を細めながらも、彼女は言葉を続けた。
「たまにな、考えることがある」
「輪廻転生を、ですか?」
そうだ、と頷き、私の左手を取ると薬指の付け根を指先でゆっくりとなぞった。――普段、指輪をしている辺りだ。
その瞳を見つめてみるも、何を考えているのかを感じ取ることが出来ない自分がもどかしい。―もう十何年もこの人の傍にいるが、まだまだわからないこともある。
「もしもう一度、生まれ変われるなら……」
そこまで聞いたところで、彼女が何を言わんとしているのか気が付いた。ここで気付かない程馬鹿ではないし、馬鹿になるつもりもない。
「少将」
続けられようとする言葉を途中で遮り、白い肩を抱き寄せた。何も身に付けていないせいか、普段より小さく感じるそれさえも愛しくて。
首筋に顔を埋めるとシャンプーの香りと、そうではない――恐らく、彼女自身のもつ香りが鼻孔を満たした。
「マイルズ?」
くぐもった、それでいて耳に心地よく響く声が聞こえる。
「生まれ変わらなくても……私はもう貴女のものですよ?」
そう。あくまで形だけの指輪や書類などなくても、ずっと前から、私は。
「貴女のものです」
もう一度、今度は幾分か強く告げると背中に回った腕の力が強まった。


――そう、これでいいのだ。
例えこの関係が妻を裏切っていることだとしても。
この人の傍にいることが自分の運命であり、望むことだと信じているから。
fin.
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