信じることができますか。ただ生まれるだけで一人の女を狂わせることが私にはできたのだと。



 ええそうです、それほどに私に力があったというわけではないのです。
 ただこの身に流れる二種類の血の故でした。





 この髪を目を同じ色の花を貴女は血の色だと泣きました。怒りました。私を殴りました。
 ええそうです、これは血の色です、私に流れる血の色です。貴女の厭う女から受け継いだ、貴女の愛する男から受け継いだ、紛れもない、血の色です。





 知っていましたか、ああ知っていましたか。

 同じ色が貴女の中をも流れているのだと。

 この色を流して死ぬのだと。






 貴女はいつも泣いていました。私を殴りながら兄に縋りつきながら。
 私は泣くことができる人を、心から幸福だと思います。免罪符を求めるようではなく、ただ本当にそう思うのです。


 生き物の体には何種類の液体があるのでしょうか。
 私が知っているのは透明な液体と、真紅の液体ぐらいで。


 私はその片方を美しいと思い、片方を醜いと思います。けれど本当は、どちらにもそう違いはないのかもしれない。



 貴女の涙が、ただ私に真紅の液体を、その色を厭わせるのです。
 その貴女にさえ流れていた、あの紅を。
 切ないように哀しいように思わせるのです。








 零れ散る、紅い玉。
 ばらばらばらばらと耳に痛い音をたてて。

 転がる赤。

 頬を流れ落ちる透明な液体。




 私はこの日まで泣いたことがなかったので、ああ泣いたら負けであるのなら泣きたくなんかなくて、泣いても何一つ変わらない現実を知っていて、だから、だから、だから。


 ああだけどその日、泣いておけばよかったなんて馬鹿なことを思った。





 この透明な液体の熱さを。
 真紅の液体と変わらぬその温度を。
 ようやくに知るのです。


 ああ本当に、本当に、何も、変わりはしないのだと。
 知るのです。




 きっとひどく遅かったのでしょう。そのために流された涙が、傷ついてくれた人がいたのでしょう。私にはもうどうする術もなく。







 ああそれでも、私はきっと。




 もう、貴女の許しを求めはしない。











切なさと悲しみが混同した気持ちに 触れたことがある
昔、一人の女を泣かしたことがある 許されなくていいよ


















【コメント】

 許されなくていいよ。許されなくても、やっぱり自分は生きているから、貴女は許さなくていいんだよ。
 そんな感じですか。決意であり、与える許しでもあるのでしょう。
 この話が一番、このお題の中ではまともなんじゃないかなー・・・・悟浄ってまともな人ですよね。一番。










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