あなたにファーストエイド


 「ぐっ……!」
 「スタン!!」

詠唱中のルーティをかばって、モンスターの一撃をまともにくらってしまったスタンは小さく声をあげた。
ルーティは慌てて攻撃の詠唱をやめ、すぐさま彼を回復をしようとしたその時。

 「ファーストエイド!」

後方からフィリアの凛とした声が響き、スタンの傷が癒される。
その間に、ウッドロウがモンスターにとどめを刺し、スタンのもとに駆け寄ってきた。

 「スタン君、大丈夫かね?」
 「はい!フィリアのおかげでなんとか。フィリア、助かったよ。ありがとう!」
 「いいえ、大事なくて良かったですわ」

スタンの眩しすぎる笑顔を直視できず、フィリアは頬をほんのり染め、恥ずかしそうに視線を反らしながらこたえた。
そんなフィリアにスタンはさらに笑顔をおくり、次いでルーティに声をかけた。

 「ルーティも大丈夫か?」
 「…………」
 「ルーティ?まさか、どこか痛むのか!?」
 「……大丈夫よ、ありがと」
 「そっか、良かったぁー」
 「ちょっとレンズ拾ってくるわ」
 「えっ?おい、待てよ!そっちは森だぞ!?」
 「ついてこないで!!」

ルーティを止めようと腕を伸ばしたスタンだったが、彼女にきつく拒絶され、一瞬怯んだ。
その隙に、ルーティは目の前の森の中へと消えてしまったのだった。

 「……一体、何だってんだよ」

伸ばされたままだったスタンの腕が力なくおろされた。







森に入ったルーティは適当な木の根に腰掛け、膝を抱えて顔を埋めていた。

 『ルーティ、早く戻りましょう?みんなが心配しているわ』

アトワイトが優しく声をかけるも、反応なし。
困った子ね。
ならば、とアトワイトは次の一手を繰り出す。

 『もう、あなたがヤキモチ焼くのも分からないではないけれど…』
 「や、ヤキモチって何がよっ!?」

ほら、食いついてきた。
伊達に18年間一緒に過ごしてきたわけではない。

 『彼女がファーストエイドを使うたびに、あなた拗ねてるじゃない』
 「拗ねてなんかっ…………うん、そうかも」

そう、今回のようなことは初めてではない。
この前見つけたディスク、攻撃と防御力が上がるうえにファーストエイドが使える能力が付加されていたのだ。
それを知って、スタンが是非フィリアに、と言うので装備させたのだが。
確かに、その時フィリアが一番攻撃力も防御力も低かったし、もともとその晶術が使えるルーティよりも、
フィリアに装備させる方が戦略的に考えても当然のこと。

でも。

 「今まであたしの役目だったのになぁ……」

あたしだけがみんなを、スタンを癒せたのに。
なんか、悔しい。

 「スタンもスタンよ!あんなにデレデレしちゃってさ!
  きっとあたしなんかより、フィリアに回復してもらった方が良いのよ!」
 『デレデレはしていないと思うけれど……スタンさんが仲間全員に優しいのはあなたも知っているでしょう?』
 「…………そうね」

ルーティ自身も、スタンのそのすべてを包み込むような優しさに何度助けられたことか。
今日も身を呈してまで自分を守ってくれたし、おそらく相手が他の誰であっても、彼はそうしただろう。
それがスタン・エルロンという人物なのだ。
なんだかんだでスタンとは長い付き合いだ、それはルーティもよく分かっている。

 『だから、気にしないでと言ってもあなたは気になってしまうのでしょうけれど。
  あのディスクをフィリアさんに渡したのは、決してあなたより彼女の方が良いからとか、そういうことではないと思うわ。
  もっと、スタンさんを信じてあげなさい』
 「わかってるけど……あー、あたしってやな女よねー!」
 『良いじゃないの。誰でも好きな人にとって、自分が特別な存在でありたいと思うのは当然のことよ』
 「す…っ!そうやって言葉にされると、すっごく恥ずかしいんだけど」
 『あら、好きであることは否定しないのね』
 「〜〜〜アトワイト!」
 『ふふふ。あら?どうやらお迎えが来たみたいよ』

アトワイトはソーディアンが近づいてくるのを感じた。
この気配は……。

 「ルーティ!やっと見つけた!こんなところにいたのか、心配したよ」
 「スタン……なっ、何か用!?」

本人を目の前にしたら、ついさっきまでのアトワイトとの会話を思いだして、一気にルーティの頬は熱をもちだした。
赤くなった自分を見られたくなくて、咄嗟に顔を背ける。

 「何だよ、さっきから何怒ってるんだよ?」
 「別に怒ってるわけじゃ……!」

どうやらこの一連のルーティの行動を、スタンは違う捉え方をしたらしい。
まぁ、ルーティのこんな態度ではそう思われても仕方がない。
このままじゃ、またケンカに発展しかねないわねと、アトワイトは少しだけルーティの背中を押してやることにした。

 『スタンさん、この子は拗ねてるだけなのよ』
 「ちょっと、アトワイト!!」
 「拗ねてる?」

慌てるルーティに首をかしげるスタン。

 『回復役をフィリアさんにとられて…』
 「わああぁぁぁーーーっっ!!!」

彼女の口を塞ぎたくても、アトワイトは剣。
ルーティはどうすることもできなくて、とりあえず大声を出して誤魔化してみたが、しっかりとスタンの耳に届いてしまった。

 「なんだ、そのことか」
 「なっ、なんだとは何よ!どうせあたしじゃ役不足なんでしょ!?」
 「はぁ?なんでそうなるんだよ!俺はただ、ルーティの負担を減らしたかっただけで…」
 「別に負担になんかなってないわよ!」

スタンの言葉を途中でさえぎるように、ルーティの声が森中に響いた。
アトワイトの後押しもむなしく、結局ケンカになりそうな雰囲気。
どうしてこの子はいつもこうなの…とアトワイトは思わずにはいられないが、
さすがにこれ以上首を突っ込むわけにもいかず、2人を見守ることにした。
スタンはルーティのきつい言い方にムッとしたが、一度小さく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
自分はケンカをしにきたのではないのだから。

 「意地張るなよ。俺知ってるんだぞ、おまえ自分が一番危ない時でも、仲間の回復を優先させるだろ?」
 「さぁー、どうだったかしら?あたしはあんたみたいにお人好しじゃないのよ」

穏やかに話しかけるスタンだが、ルーティは頑なに意地を張り続け、ツンとそっぽを向く。
そうやって悪ぶってるけれど、本当は他人を思いやれる優しさを持ってるくせに。
ここまでくると腹立たしいのを通りこして、逆に可愛く見えてくるのは、惚れた弱みというやつだろうか。
スタンは思わず頬が緩みそうになるのを抑え、彼女を見つめて言葉を続ける。

 「俺はグミとか投げるぐらいしかしてやれないけど、前衛だとすぐにアイテムが出せないし」
 「別にいらないわよ。アイテムもタダじゃないんだしさ」
 「おまえなぁ、もう少し自分を大事にしろよ。
  ルーティがそんなだから、少しでもおまえに休んでもらえるようにって、フィリアにファーストエイド使ってもらってるんだぞ」
 「え?」
 「だからさ、俺はルーティが役不足だなんて一度も思ったことないよ。寧ろ、いつも俺たちのこと気にかけてくれて感謝してる。
  ありがとう、ルーティ」
 「……スタン」

スタンからの思いがけない言葉に、そっぽを向いていたルーティは思わず振り向いた。
彼のおひさまみたいな温かい笑顔と優しい声が、氷のようにカチカチになっているルーティの心を溶かしていく。
あぁ、本当にこの田舎者はどうして、自分が欲しい言葉をいつもタイミング良くくれるんだろう。
自分がスタンを信じることができなくて、勝手にヤキモチやいたり拗ねて迷惑をかけたのに、こうして森の中まで捜して迎えに来てくれる。
それが嬉しくて、悔しくて、恥ずかしくて、そんな感情が一気に込み上げて涙となり、ルーティの頬を滑り落ちた。

 「……ごめんなさい」
 「あぁ。……ほら、泣くなよルーティ」
 「女の子の泣き顔見るなんてサイテーよ!」
 「あのなぁー」

前にも同じこと言われたなぁと、スタンは苦笑しつつ、親指で優しく雫を拭ってやる。
が、しかし。

 「ちょっと、あんたグローブ付けたままだと痛いでしょーが!」
 「あっ、ごめん!」
 「もうっ!これだから田舎者は…」
 「田舎は関係ないだろ!」
 「…………」
 「…………」
 「ぷっ!」
 「あははっ!」

良い雰囲気になるかと思いきや、結局いつも通り。
けれど、2人の距離は以前よりも縮まっている。

 『良かったわね、ルーティ』

アトワイトはルーティの笑い声を聞いて、彼女が心から笑えていることに一安心し、そっと呟いた。
そして、感心する。
スタンさんは心にファーストエイドをかけることができるのね、と。






PS版ネタでスタルーでした。
一応、物語終盤をイメージしてますが、旅の間の2人はこんな距離感かなぁって。
いや、もちろんいちゃらぶもアリだし好きですけど…!!(笑)
ディスクの術の件、最初全然知らなくて、戦闘中いきなりフィリアがファーストエイド唱えた時は「何で!?」と本気で驚きました(笑)
後、私仲間は勝手に増えるもんだと思ってそのまま話を進めてしまい、結局ずっと4人パーティだったので、本気で回復役がルーティしかおらず…(爆死)
しかも、マジで仲間優先なのか、なかなか自分に回復術かけない姉さん。
なので、スタン(←私操作)がグミ投げまくってました。
とりあえず、スタルーとアトワイトのお姉さんっぷりが書けて満足!(私が)  (2011.8.17)



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