恋の味



  「エドワード君にアルフォンス君お待たせ」
ホークアイ中尉が執務室に入ってきた。
今日は応接室が空いていないため、夕方まで出張中のマスタング大佐の執務室を借りている。
エドが会いに行くことを事前に連絡していたので、(ロイは渋ったが)一応部屋の使用のことは了承済み。
  「あれ?その瓶は何ですか?」
アルフォンスはホークアイが手に持つ緑がかった瓶を指差した。
  「フフフ、珍しいでしょ?東の国のジュースなの。子供の頃に何度か飲んだことがあるんだけど、
   この前デパートで外国の飲み物展っていうので見かけて、つい買っちゃったのよ」
  「おぉー!外国モノかー」
  「変わった形の瓶だね!」
その瓶は真ん中より少し上の辺りがくぼんでいる。
さらに目のように見えるくぼみが二つ。
エドワードとアルフォンスは瞳を輝かせてまじまじと瓶を見つめている。
よほど珍しかったらしい。
  「なぁ、中尉ーこれってどんな味がすんの?」
  「これはラムネと言って、レモネードみたいなものよ。
   げんに、ラムネっていうのはレモネードがなまった言葉なんですって」
  「へぇー、うまそうだな!
   でも、これどうやって開けるんだ?飲み口のとこにガラス玉がはまってるけど」
  「あっ、本当だ!」
  「これがこの飲み物の楽しみの一つなんだけど、この上についている専用の栓抜きをこうして…!」
ホークアイは瓶の下にタオルをしき、栓抜きでガラス玉をグッと押した。

ポンッ!!シュワワー……

  「おわっ!」
  「泡がいっぱい出てきたよ!」
物凄い音とふき出す泡に驚く二人。
先ほど飲み口にはまっていたガラス玉はくぼみのところにつっかえて涼しげに揺れていた。
  「すげー!!」
  「僕やってみたい!兄さんいいでしょ?」
  「おぅ!じゃっ、開けるのはアル、飲むのは俺な!」
そして、ホークアイに説明してもらいながらアルフォンスがラムネを開けた。
また豪快な音とともに泡がふきだし、歓声があがった。
実はこのラムネ、食べたり飲んだりできないアルフォンスにも楽しめるようにというホークアイの配慮だったのだ。
思ったとおり二人に楽しんでもらえているようで、ホークアイは嬉しくなって目を細めた。
  「はい、兄さん!早く飲んでみてよ!」
  「んじゃ、ホークアイ中尉乾杯!」
  「フフフ、乾杯」
カチャンと音をたてて瓶と瓶がぶつかり、乾杯した後エドワードとホークアイはラムネを一口飲んだ。
  「っ!!めちゃくちゃ美味い!」
そう言ってエドワードはぐいっと瓶を傾けて飲もうとしたが、ガラス玉がはまってしまって上手く飲めない。
  「だぁーっもう、このガラス玉めー!!」
  「フフッ、ガラス玉がはまらないように飲むのも、ラムネの醍醐味なのよ」
ガラス玉と瓶が奏でる涼しげな音と、笑い声が執務室に満ちた。


数分もしないうちに、エドワードはラムネを飲み干していた。
  「兄さん、せっかくなんだからもっと味わって飲めばいいのに…」
  「そ、そんなこと言ったって、美味いんだから仕方ないだろっ!?」
  「そんなに気に入ってくれるなんて、もっと買っておけば良かったかしら……
   それなら、これも良かったらどうぞ。まだ半分以上残ってるし」
  「いいのっ!?んじゃ、もらう!ありがとなっ!ホークアイ中尉」
ホークアイから瓶を受け取り、またガブガブ飲みだすエドワード。
かなりラムネが気に入ったようだ。
しかし、その様子を見ていたアルフォンスが横でソワソワしていた。
  「あら、どうしたの?アルフォンス君」
  「…にっ、兄さん…か、か……」
  「かぁー?何だよ、アル!」
  「かっ、かかか間接キスーーっ!!!」
  「………………へ?」
  「あ、アルフォンス君ったら…!」
  「っ………………」
エドワードは硬直していた。
ただラムネが飲みたいということだけを考えていたので、アルフォンスに間接キスだと言われるまで気がつかなかったのだ。
瓶の飲み口を見ると、だんだん顔がほてってくる。

―― えっ!?えぇ!?俺と中尉が間接キス!!?? ――

いつもなら何か言い返すところだが、顔を真っ赤にしたエドワードはただただ黙っていることしかできなかった。
頭の中でアルの言葉『間接キス』がぐるぐるまわる。
しかも、相手は自分が憧れている女性。
国家錬金術師で人間兵器……なんていっても、エドワードはやはりまだまだ思春期真っ只中の少年なのだ。
ホークアイはというと、ほのかに頬を紅く染めていた。
あまりにも真っ赤な顔のエドワードを見ているとついつられて……。
そして、ここに大佐がいなくて本当に良かった、と思っているのであった。
いたらかなりややこしい事になっていただろう。
そんなことを考えているうちに、ようやくエドワードが少し落ちついたようで、口を開いた。
  「…………ご、ごめん、中尉!お、俺…」
  「き、気にしなくていいわよ!本当にキスしたわけではないのだし…」
  「っ!!!」
せっかく落ちつきだしたエドワードの顔が、先程よりもさらに赤くなった。
今のエドワードは『キス』という言葉に過敏に反応してしまう。
どんどん真っ赤になるエドワード。このままでは鼻血も出そうな勢い…。
ちょっと、今の発言は逆効果だったかしら?と、今更ながらに気づくホークアイに、これ以上はヤバイ!と兄の危機を感じ取ったアルフォンスが声をかけた。
  「あのっ、ホークアイ中尉!!ぼっ、僕たち今日はこれで失礼します〜!!」
  「あ、あらっ、もう帰るの?また、いつでも遊びにきてちょうだい」
  「はっ、はい!」
エドワードの背中を押して急かしながら、アルフォンスたちが出て行こうとすると、エドワードが突然ふりかえり大きな声を出した。
  「……こ、この瓶もらってもいい!?」
真っ直ぐな瞳がホークアイをとらえる。その必死な表情はエドワードには悪いが、なんだか可愛くて笑える。
  「えぇ、いいわよ」
  「ほんとにっ!?ありがとな、中尉!」
エドワードは顔を真っ赤にしながらも、少し表情が明るくなった。子供って素直ね、と思いながらホークアイは微笑んだ。
  「それじゃあ、僕たちはこれで」
  「あら、下まで送るわ」
  「あっ、大丈夫です!東方司令部内は熟知してるんで!」
  「そう?それじゃ、気をつけてね」
  「ホークアイ中尉もお仕事がんばって下さいね」
  「ありがとう、がんばるわ」
そうして、エドワードはホークアイが口をつけたラムネ瓶を持って、アルフォンスと宿へ帰っていった。
エドワードにとって、ラムネの味は忘れられない味になるだろう。


嵐が通り過ぎた後のように静まりかえった執務室に、一人残されたホークアイ。
  「フフッ……エドワード君もまだまだ子供ね」
アルフォンスに間接キスだと騒がれた時はさすがのホークアイも少し動揺してしまったが、あのエドワードが顔を真っ赤にして黙りこくったところを今まで見たことがない。
それほどまでに彼に好かれているのかと思うと、ちょっぴり照れる。
けれど、ホークアイにとってエドワードは恋愛対象というよりは、可愛い弟といった感じなのである。
だから、自分が口をつけたラムネ瓶の持ち帰りも許可したのだ。
もし、あれが大佐だったりしたら、なんだかストーカーみたいで気持ち悪いので、絶対にさせなかっただろう。
  「……と、『気持ち悪い』は言い過ぎかしらね」
そう言ってホークアイは一人微笑み、もうすぐ帰ってくる上司のためにお茶でも淹れようと、執務室をあとにした。


おわり





アイ←エドでした!
以前、さとーから「豆っ子を赤面させてくれ!」と言われていたので、どうしようかなーと思って考え付いたのが間接キスでした(どんな思考だ…)
これ書いてる時私もラムネが飲みたくなったのですが、近所で売ってるのはプラスチック容器モノばかりで…(苦笑)
瓶モノはえびたの近所のスーパーにあるとのことだったので、買ってきてもらいました(笑)
やはり、ラムネは瓶にかぎる!!!(意味もなく)
それでは、ここまで読んで下さった皆様にありったけの感謝を! (2004.7.20)

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