君と会える場所



「あら、大佐。今お帰りですか?ご苦労さまです」
「あぁ、中尉…」

まさに幸運。
今日一日非番だった彼女。
彼女のいない職場なんて長居したくもなく、さっさと仕事を済ませてきた。
こんな日は早く帰りたくて、たまたま公園を突っ切って行く途中だったのだ。
そうしたら、君に会えた。

「こんな時間にどうしたんだ?」
「あぁ、ブラックハヤテ号の散歩です」

二人して足元に視線を落とす。
黒と白の毛の小さな生き物と目が合った。

「ワン!ワン!」
「こら!この人に吠えてはダメよ?」

先程まで威勢よく吠えていたが、彼女の一声で静かになり、行儀よくお座りまでしている。

「いい子ね」

ブラックハヤテ号は彼女に撫でられて、嬉しそうに尻尾を振っている。
羨ましいぞ、コイツ。

「…さすがだな。躾がしっかりしている」
「そうでもないですよ。普段はこんなに吠えない子なのに…すみません」

ようするに、私はあまり好かれていないということか。

「いや、番犬たるもの、そうでなくてはね。しっかり彼女を守るんだぞ」

ガブッ!!

「っ……!!」
「大佐っ!大丈夫ですか!?こらっ!ハヤテ!!」
「クゥーン……」

先程までおとなしくしていると思ったら、いきなり足に噛み付いてきた。
奴め、なかなかやるな。
しかし、私はこれくらいでめげたりはしないぞ。

「だ、大丈夫だ。まだ仔犬だし…」
「本当にすみません!血が出ていたらいけないので、少し見せてください!絆創膏くらいならありますので」

そう言って彼女はベンチを探しだした。
しかし、今日は暑くもなく寒くもないちょうどよい気候。
その上、空には満天の星ときた。
広い公園内のベンチはすでにカップルに占領されていたのだった。
私たちも他人から見れば、恋人同士に見えるのだろうか?
そんなことを考えながら彼女の横を歩く。
普段では並んで歩くことはほとんどない。
なぜなら、私が「大佐」で、彼女が「中尉」だからだ。
彼女はいつも私の斜め後ろに控えている。
彼女が後ろにいると思うと、とても安心して前へ進めるが、やはり姿が見えないのは淋しい。
だが、ほら。
横にいると君の長い睫毛までしっかり確認できる。

「大佐?」
しまった。
いつの間にか見つめていたようだ。

「いや、足は本当に大丈夫だから」

さっきから公園内を歩き回っているぐらいだし。

「そんな、ペットの失態は飼い主の失態です!このままでは私の気がすみません!」
「君らしいというか、なんというか…。
ならベンチでなくても、あそこの芝生のところでも私は構わないが」

最初“それは大佐に失礼です”とかなんとか言っていた彼女だったが、ふと、怪我人(というほどではないが)を連れ回していたことに気付いたようで、諦めたらしい。




「これで応急処置はしておきましたので。自宅に戻られたら、もう一度消毒なさって下さいね」
「さすが、手際がいいな。
……というか、君の手提げから絆創膏のみならず、消毒液が出てきたことに驚きだよ」
「いつも持ち歩いてるんです」

怪我は思った通りたいしたことなく、噛まれた部分が少しミミズ腫れになっている程度だった。
しかし、彼女は化膿してはいけないから、と消毒液をとりだし、丁寧に手当てをしてくれたのだった。

「……ありがとう」
「…いえ、当然のことをしたまでですので」

彼女と目が合った。
いつもは恥ずかしくてサッと視線をそらしてしまうが、今は見つめ合ったまま。
おっ、なんかいい雰囲気じゃないのか?
今なら、素直に名前で呼べるかも……。

「…………リ」
「ワン!ワン!ワン!!」
「…………」
「あら、ハヤテどうしたの?」

すっかり、小さなお邪魔虫の存在を忘れていた。
そいつは彼女に抱き上げられ、膝の上で尻尾を振っている。
奴が人間だったら、間違いなく消し炭にしているところだ。
おっと、物騒なことを考えてしまったな。

「今日はやけに甘えてくるわね、どうしたの?」

そう言って彼女は愛犬に顔を近付ける。
鼻と鼻が触れるほどの至近距離。
まったくもって羨ましいかぎりだ。

「私にもブラックハヤテ号を抱かせてくれ」

悔しいので、奴を彼女から離してみた。
暴れるかと思いきや、案外普通にしている。
先程のこともあるので、ちょっと不気味だが。
なんとなく、彼女と同じように奴に顔を近付けてみる。

ペロン

「!?」
「あら、気に入られたようですね」
「き、気に入られたって…!今、私はコイツに唇を奪われたぞ!?わっ、やめろ!くすぐったい!!」

奴は私の反応が面白いのかなんなのか、執拗に舐めてくる。
隣では、必死に犬とやりとりする私を見て、彼女が珍しく笑っている。
彼女の笑顔が見れたのだから、少しは奴に感謝しなければな。


「ふー!やっと解放された……」

芝生の上なので、気にせず大の字になって寝転んだ。
あまりにもしつこかったので、見兼ねた彼女が奴を抱き上げて私を解放してくれた。
最初は彼女と奴を引き離したくてしたことだったのに、結局無駄だったようだ。
奴にしてやられたのだ。

「もう、そんなところに寝転がって……大佐は本当に子供みたいですね」

隣で苦笑する彼女を見上げる。
彼女の金色の髪は電灯に照らされて輝き、夜空によく映える。
まるで月のよう。

「……今日は月がとても綺麗だな」
「あら、今日は新月だったと思いますけど?」
「いや、私にしか見えない月だから」
「?」

彼女はよくわからないという表情をしている。
だが、今こうして隣で寝転がり、夜空を背景に彼女を見ているのは実際に自分だけなので、今の発言は嘘ではない。
それよりも、彼女を見れば見るほど、この満天の星空も引き立て役としか思えない。

「……本当に綺麗だよ。さて、今からその月を空から落としてみようか」
「どういう意味…」

彼女が言い終わらないうちに、少し身体を起こして後ろから彼女の肩に手をかけ、一気に引っ張った。

「きゃっ!!い、いきなり何をするんですかっ!?」
「なに、君にもこの星空を堪能してほしくてね」

そう言って、悪戯が成功した子供のように微笑んでみせる。
こうすると、彼女はもう私に何を言ってもきかないということを悟って、おとなしくしてくれるのだ。

「まったくもう……」

こんな所で大の大人二人が並んで寝転がっている光景は、他人が見れば滑稽であるが、ここは運良く公園の一番奥なので、人通りはない。

「でも、確かに綺麗な星空ですね」
「だろう?」
「フフッ、こうして芝生の上に寝転ぶなんて子供の時以来ですよ」
「たまにはいいもんだろう?」
「えぇ、“たまには”。大佐にとっては“いつも”の間違いでしょうけど」
「……君には勝てないな」

隣からクスクスと笑い声が聞こえる。
土や草の香り、満天の星空、隣には最愛の人。
こんなに落ち着く場所は他にないだろう。
ゆっくりと目を閉じかけたその時。

「ワン!」

またか。
しかし、時計を見ると彼女と出会ってから軽く一時間は経っている。
さすがにもう帰らないといけない。
それに、いくら気候がいいとはいえ、これ以上彼女を野外で寝転ばせて、私のせいで風邪をひかれてはたまらない。
二人同時にゆるゆると起き上がった。

「すまない、長い間引き止めてしまって」
「いえ、元はと言えば私のせいですので」

実際は私の足に噛み付いた奴のせいだが、犬のせいにしないところが、彼女の人格の良さを物語っている。

「では、また明日」
「あぁ、明日もよろしく頼む」

彼女は同僚なのでこの会話は当然のことだが、また会う約束をしているみたいで嬉しい。

去っていく彼女の後ろ姿を見つめながら、会えない日はまたこの公園に来てみるか、と思った。


おわり



大佐が、まるで名探偵コ○ンの新一やら怪盗キッ○のようにキザなこと言ってる気がしますが、いかがでしたでしょうか?(笑)
中尉を月に例えるなんて、それこそ月並みでネタかぶってそうな…(ガタガタ)
さらに、中尉がブラハのことを「ハヤテ」と呼んでいますが、原作で出る前に書いたし、こう呼ぶのもアリかと思い、とりあえず当時のままにしておきます(笑)
ポルノグラフィティの「惑星キミ」を聴いて妄想。
この曲もロイアイソングと言い張ってみる…(というか、ロイアイに変換して妄想?・爆死)
とにかく、ここまで読んで下さり、ありがとうございますv (2004.2.12)


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