お味は?


 「今日のお昼はリタの好きなサンドウイッチだよ」
 「…………」

本日の料理当番、フレンが爽やかな笑顔でリタにお皿を差し出す。
リタは何か胡散臭いものでも見るように皿の上の物体に目をやる。
一応、見た目は美味しそうなサンドウイッチ。
だが、油断してはならないのだ、彼の料理は。

 「……ねぇ、これ味見したの?」
 「あぁ、ちゃんとしたよ。僕じゃ…」
 「じゃあ、遠慮しとくっ!!」
 「え?」

フレンの料理の腕前は確かだが、彼は究極の味音痴。
レシピ通りに作ったものなら、料理上手なユーリやジュディスのものと同じかそれ以上の出来になるのだが、
彼が味見しているとなると、人(いや、ラピードも無理か)が食べられるものではない代物に成り下がっている可能性が120%だ。
料理対決の際、フレンの“気を利かせた”料理を食べ、地獄絵図と化した審査員たちの様子を思い出して、リタは身震いした。
たぶん、これも食べたら確実に死ねる。

 「だって、あんた味音痴でしょ! あたしはまだ死にたくないわ!」
 「……そこまではっきり言われると、さすがに傷付くんだけど」

フレンは苦笑いし、さてどうしようかと思っていたところに天の声が。

 「あら、リタまだ食べてないんです?」
 「今日のサンドウイッチは美味かったぞー。それともなんだ、腹でも壊してんのか?」

すでに食事を終えたエステルとユーリが様子を見に来た。
というのも。
昨日の晩から 「研究に集中したいからご飯はいらない」 と宿の一室に篭ってしまったリタ。
心配したフレンが2人に相談したところ 「サンドウイッチなら本とか読みながらでも食えるだろ」 というアドバイスを親友から受けた。
そんなユーリの提案に、エステルも最初はお行儀が悪いだの何だの言っていたが、最終的にはリタが倒れてしまわないか心配になり、
何としてでも食べさせて下さい!とお願いされる始末。
そして冒頭のシーン、というわけだ。

 「何、あんたたち食べたの?これ」
 「はい!美味しかったですよ」
 「リタ安心しろ、味見はオレがやったから。 フレン、お前言わなかったのか?」
 「うん、ちょっと言うタイミングがね」

そういえば、フレンは何か言おうとしていた気も……と、リタは彼との先程のやり取りを思い返しつつ、もう一度サンドウイッチを見る。
研究に没頭すると空腹はそんなに感じることはないが、いざ目の前に食べ物があると途端にお腹がすいてくる。

 「そ、それなら、ありがたくいただいとく」
 「本当かい! はい、どうぞ」

満面の笑みでフレンはリタにお皿を渡す。
後ろでエステルも良かったです、と嬉しそうにしていた。

 「こいつ、本当にリタのこと心配してたんだぞ? 『大変だ、ユーリ!』 って
  オレとエステルんとこに来た時のフレンの顔、リタにも見せたかったぜ。な、フレン?」
 「ユーリ!」

ニヤニヤしながら肘でフレンを突くユーリは実に楽しそうだ。
フレンは照れているのか、若干顔が赤くなっている。
リタはそんな彼の様子を見て、本当に自分のことを心配してくれていたのだと分かって嬉しくなる。
人と関わることが嫌いだった以前の自分なら、お節介やら欝陶しいとしか思わなかっただろう。
でも、今はそれとは別の感情が自然に出てくるようになった。
ここにいる仲間たちのおかげで。

 「……心配してくれて、あ、ありがと」

なかなか素直になれない性格だけど、ちゃんと感謝の気持ちは彼に伝わったのだろうか?
おそるおそる見上げたフレンの顔はリタが思わず見とれるほどの笑顔で、心がぽっとあったかくなった。

 「良かったですね、フレン」
 「あぁ、オレたちが来なかったら、味音痴のお前が作ったサンドウイッチは食べてもらえなかったかもな」
 「ま、まぁね!」

リタは照れ隠しのためにユーリに同意したのだが、フレンはそのことにムッとした。
ちょっとしたヤキモチってやつである。

 「さっきから、君たちは僕のことを味音痴味音痴って言うけど……!」
 「っ!?」

一瞬、リタは何が起こったのか分からなかった。
気がついたら、目の前にあったフレンの顔が離れていくところだった。
うっかりお皿を落とさなかったのを褒めてほしいくらい。


 「リタはいつも甘くて美味しいんだ。僕が味音痴なら、そんなこと分かるはずもないだろう?」


フレンがそれはそれは真面目な顔でお惚気爆弾発言をしたものだから、突然の親友たちのキスシーンに呆気にとられていたユーリはたまらず笑い出した。

 「フレ…おまっ、傑作だな!はははっ!! やべぇ、ツボった…!!」
 「まぁ!フレンとリタは『いつも』なんです!?」

仲良しな2人を想像して今にも、きゃー!と言い出しそうなエステルは赤くなった頬を手でおおっている。
それを見て始めて、リタは自分が何をされたのかはっきりと理解した。
理解したら、顔が、体中が、火のついたように熱くなった。

 「ちょっ、エステル誤解よ!変な想像しないでっ!!」
 「誤解じゃないよ、その通りじゃないか」
 「〜〜〜っ! あんたは黙ってて!!!」

ばっちーん!




 「け、研究の邪魔したら、今度はぶっ飛ばすわよ!!」

バタン!と盛大に音を響かせてドアが閉められ、カチャっとご丁寧に鍵のかかる音までした。
フレンに平手をおみまいしたリタはまたもや部屋に篭ってしまったのだった。

 「……っ、くっあっははははは!! お前らいい加減にしろ、腹筋が死ぬっ」
 「……ユーリ、笑いすぎだ」

いい加減にするのは君の方だ、とフレンはリタに叩かれた頬をさすりながら、ユーリを睨みつける。

 「フレン、治癒術は必要です?」
 「いえ、エステリーゼ様、大丈夫です」
 「そうですか。 でも、フレンとリタは仲が良いんですね。素敵です、羨ましいです!」

エステルは胸の前で手をくみ、瞳を輝かせて夢見る乙女モード全開だ。
そんな彼女を見て、ようやく笑いがおさまったユーリはニヤリと笑い、エステルを抱き寄せる。

 「ふぅん?じゃ、オレたちもやるか?」
 「いっ、今は遠慮しておきます…」
 「そっか。後でなら良いってことだな。楽しみにしてろよ?」
 「……もぅ、ユーリ意地悪です」

そんないちゃつきだした2人をよそに、フレンは閉じられたドアを見つめる。
とりあえず、サンドウイッチは受け取ってもらえたし、さらにリタからありがとうと言ってもらえたのだ、こんなに嬉しいことはない。


夕飯を作ったら、また来よう。
今度は、親友とお姫様には遠慮してもらって。





性懲りもせずフレリタです、今度はガチで。
そこに大好きなユリエスも少々まぜました、そして下町コンビの仲良し度もプラス = カオス
フレンって天然で、何気に腹黒いキャラだと思うんですけど、今回は天然メインな感じで。 (2009.12.31)



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