ぶきっちょ2人組



バタン!!!

ハボックたちは「何事か?」と、音がしたほうを見ると、ホークアイが力いっぱい執務室のドアを閉めていた。
俯いているので表情はよく分からないのだが、明らかに怒っているのは確かだ。
その異様な雰囲気にハボックたちは声をかけることもできず、ただただ視線だけをホークアイに向けていたが、そんな視線に気づいているのかいないのか、ホークアイはそのまま書類を提出しにどこかへ行ってしまったのだった。
  「何かあったんでしょうか?」
  「どうやら、そのようですね」
  「どうせまた、くっだらないことで喧嘩でもしたんだろ?」
  「そうそう、触らぬ神に祟りなし!」
そう言ってハボックはタバコをくわえなおし、いそいそと仕事に取り掛かった。
もうすぐ定時。
ただでさえ5日前に起きたテロ事件の後処理がまだ残っていて、残業になるかならないかの瀬戸際だというのに、上司2人の痴話喧嘩に付き合っている暇はないのだ。


本当に信じられない!!
書類を提出してきたホークアイは、東方司令部の廊下をずんずん歩いていた。
異様なオーラを漂わせ妙に早歩きなホークアイに、廊下を歩く他の軍人たちはサッと道をあけていく。
そして、彼女が通り過ぎた後きまって「また大佐が仕事をサボったんだ」などとヒソヒソ話が繰り広げられていた。
そんな可愛げのある理由で怒ってるんじゃないわよ!!
と、ホークアイが歩くスピードをさらに上げたその時。
  「あれ?リザちゃん?」
  「っ!ヒューズ中佐!?お久しぶりです!」
思わぬ人物に呼び止められ、急停止して敬礼。
先ほどは歩くスピードが加速すればするほど怒りも増していたが、立ち止まったことによって少しおさまってきたようだ。
  「ちょっと、こっちに来る用事があってよ!
   それより、どうしたんだ?凄い剣幕で歩いてたみたいだけど」
  「えぇ…ちょっと」
  「どうせまたロイの野郎が何かしでかしたんだろ?本当すまねぇなぁ」
  「いえっ、ヒューズ中佐が謝ることないですから!それでは失礼します!」
ホークアイは「ロイ」と名前が出た瞬間、おさまりかけていた怒りがまた爆発しそうになったので、その場を早急に立ち去ろうとした。
  「あーっ、ちょい待ちちょい待ちー!!」
  「何か?」
  「この後、ちょっと俺に付き合わないか?」
  「今日はそんな気分ではありませんので」
  「まぁまぁ。誰かに話すだけでも楽になると思うぞー?どうだ、一杯やりながらでも」
最初はそんな気分ではなかったのだが、ヒューズは聞き上手なので話しやすいし、このまま帰るとブラックハヤテ号に八つ当たりしそうな勢いだったので、ホークアイはおとなしくヒューズの誘いを受けることにした。







  「んで、一体何があったんだ?」
  「……実は、この間管轄内でテロ事件が起こったんです」

事のあらましはこうだった。
5日前、テロ事件が起きた。
普通ならば「大佐」であるロイ自らが出向くことはないのだが、上層部の嫌がらせで現場へ向かうこととなった。
しかし、そこは焔の錬金術師として名を馳せているロイ、あっという間にテロ集団を鎮圧。
誰もがこれで終わったと思ったその時、潜んでいたテロリストの生き残りがロイめがけて発砲した。
それをホークアイがいち早く察知し、半ばロイの盾になるかたちで前へ進み出てすぐさまテロリストを撃ち殺したのだったが、ホークアイの肩にテロリストの撃った銃弾が掠っていて、軍服に赤黒い染みができていた。
ロイは酷く心配していたが、ホークアイにとってみれば本当にかすり傷にすぎない程度で、そんなに騒がれるほどのものでもなかった。
実際、5日経った今ではもう痛みもひいている。

  「へぇー、そんなことがあったのか。それが今回のリザちゃんご立腹事件にどう繋がったんだ?」
リザちゃんご立腹って…と思いつつ、ホークアイは話を続けた。
  「それ以来、大佐が私に凄く気を配って下さるんです」
  「なんだ、良いことじゃないのか?」
  「よくありません!!」
ホークアイが急に大声で言ったのでヒューズは驚いてしまったが、酒が入っているせいなのかもしれないと考え、気にせず話の続きを促した。
すると、いつものホークアイからは考えられないほど、次から次へと言葉が出てきた。
  「だって、私は気を配って欲しいのではなくて、私が大佐に気を配りたいんです!
   守られるのではなくて、守りたいんです!
   毎日毎日あまりにも心配されるので、今日それを大佐にお伝えすると、
   大佐は『私を庇って傷を負うなんてことはするな!』とかなんとか言うんです!
   私は大佐をお守りする立場にあるので、それは無理だと言いました。
   すると『君を傷つけてまで生き残ろうとは思わない!』などと!
   大佐は……“大佐の護衛”という私の存在理由を否定なさったんです!」
2人が激しく口論している様子が目に浮かぶ…ヒューズはそんなことを思いながら、黙ってホークアイが再び話し始めるのを待った。
  「大佐は上を目指す方です。
   これから先もっと危険な場所へ踏み込まなくてはいけないでしょうから、私がきちんとお守りしなければならないんです!
   大佐を守ることによってこの傷よりももっと酷い傷を負うこともあるでしょうし、もしかしたら死ぬかもしれません。
   それでも、私は構わないんです。
   これが私の仕事、私の使命ですから。
   だから、これくらいの傷でうろたえないでほしいんです!
   私は大佐の一つの駒にすぎないのだと思って下さらなければ困るんです!」
そう言いきると、ホークアイはグラスを一気に傾けた。

しばらく沈黙した後、ヒューズがそっと口を開いた。
  「リザちゃんは本気であいつのことを大切に想ってくれてるんだな」
  「…………えぇ。大切すぎて、困ったことに頭の中は大佐でいっぱいですよ」
  「ははっ、そうか。あいつも幸せ者だねぇ」
ぽつりぽつりと会話が続く。
  「…だがな、リザちゃんがあいつのことを想ってるのと同じくらい、あいつもリザちゃんのことが大切なんだと思うよ」
  「まさか」
  「いや、俺の勘は結構鋭いぞ?」
  「もし、そうだとしても……大佐には自分のことだけを考えていて欲しいんです」
  「そうだなー、あいつの性格からするとそれは無理な話だろうなぁ。
   あいつは人一倍優しい奴だからよ!誰かを犠牲に〜なんて考えはできないのさ」
  「…………そうなると、大佐に心配をかけること事態が副官失格ということですよね」
今までと少し声色が違ったので、ヒューズはホークアイのほうを見た。
彼女は今にも泣きだしそうな表情をしていた。
  「……リザちゃ」
  「私…ずっと大佐の傍にいたいんです。
   副官として、護衛として大佐を守る立場にあれば、一番近くにいられるでしょう?
   でも、今日それを否定されてしまいました。
   そんなことをされたら、私が傍にいる理由がなくなってしまう…それが怖いんです、悲しいんです」
どうやらホークアイの怒りは表面上だけのもので、本当は泣きそうなほど不安になっている気持ちを隠すためだったようだ。
ヒューズはホークアイの心の奥深くを垣間見たようで、俺なんかがそれを見ていいのだろうか…と少々焦ってしまったが、やがて表情を緩めて静かにホークアイに語りかける。
  「ありがとな」
  「……はい?」
突然礼を言われ何のことかわからず、首を傾げてきょとんとしている風情がとても可愛らしい。
まぁ、グレイシアには敵わないが。
  「いや、そこまであいつの傍にいたいと思ってくれて。
   大抵の奴…男も女もだけど、あいつと意気投合したかと思えば、結局離れていくんだ。
   あいつは表面上だけの付き合いで、本当の自分自身を滅多に出そうとはしない。
   だから、それに気がついた奴はあいつから離れようとする。
   自分のことはたくさん知られているのに、相手のことは全然分からないなんて、
   ちょっと気持ち悪いだろ?
   まぁ、なんだかんだ言ってあいつ女性関係も派手だし、見かけはオープンな感じがするんだが、
   実は誰1人にだって心を開いちゃいないのさ」
  「……ヒューズ中佐には充分すぎるほど、開いてると思いますけど?
   副官の私よりも、ずーっと」
  「あれ?もしかして、俺に嫉妬してる?」
  「し、て、ま、せ、ん!」
口を尖らせてそう言う彼女は本当に可愛い。
少し酔っているらしく、本当にいつもの彼女からは想像できない仕種だ。
まぁ、グレイシアに比べれば…(以下省略)
しっかし、あいつはこれだけ愛されていながら、何リザちゃんにこんな思いさせてんだか。
本当にこの2人はお互い想い合っているくせに、それがそれぞれに伝わっていないなんて…2人とも不器用すぎる。
どうして、第三者であるこの俺が2人の気持ちをよーく知っているんだ?
そんなことを考えながら、ヒューズがグラスに手を伸ばした時、隣から凛とした声が聞こえてきた。
  「……でも、私は大佐が本心を見せてくださらなくても良いんです。
   たとえそれが分からなくても、私が大佐の傍から離れたいと思うことは絶対にありません」
まっすぐな瞳でヒューズにそう言い切った彼女は、先ほどまでと違って、可愛いというよりも美しかった。
こりゃ、ロイの野郎が本気で惚れるわけだ。
  「本当、あいつにリザちゃんはもったいないくらいだな!」
  「中佐ったら…!
   ……でも、明日から一体どうすればいいのでしょう…気まずい」
  「うーん…まぁ、まずは今日俺に打ち明けたことをそのままあいつに言ってみたらどうだ?」
  「そんなことできません!!
   傍にいたいなんて言って、拒絶されたらどうするんですか?それこそ私、立ち直れません」
  「拒絶なんてしないさ。
   あいつは傍にいられたら困る奴の怪我の心配なんてしない。
   そんな奴に対して『傷つけたくない』なんてことも言わない。
   ロイは優しいとは言っても、それは自分が認めた人物に対してのみだ。
   その他に関しては、案外冷徹なところもあるからな。
   自分が大切に思っている人以外にはそんなことはしないんだよ。
   だから、リザちゃんは拒絶なんてされない、俺はそう思う」
  「…………」
  「あとー…、1つだけ聞いてほしいことがあるんだが、いいか?」
  「…はい」
  「あいつの気持ちも少しは尊重してやってくれないか?
   リザちゃんが怪我をした時、本当に心配で心配でたまらなかったんだと思う。
   もしも、グレイシアが俺を庇って怪我をしたとしたら、俺もあいつと同じように彼女に言うだろうよ。
   ただーし!
   あいつの場合と違って、もっと言葉と言い方を選ぶがな!
   あいつのことだから、きっと頭ごなしにバンバン言ってきたんだろ?
   そんなんじゃ、リザちゃんも反発したくなるよなぁ?」
本当に不器用な奴でごめんな?と苦笑いしながら、ヒューズは言った。
そう言われて、ホークアイは今日の喧嘩を思い返してみた。
確かに、きつい口調で次から次へと言われたような気がする。
しかし、大佐の立場になって考えてみれば、部下の心配をするのも尤もなことであろう。
私は大佐のことを1番に考えているなんて誇らしげに言いながら、自分の気持ちや考えばかりを押し付けていなかっただろうか?
振り返ってみると、どうにもそんな気がしてならない。
  「……ヒューズ中佐って、なんだか鏡のような人ですね」
  「鏡?」
  「えぇ。中佐と話していると、私でも知らなかった自分自身や気持ちに気がつくんです。
   ……私、大佐のことを一番に考えていると思っていたのに、
   結局は自分のことばかり考えていたのかもしれません。
   私が守りたい、私が傍にいたいって…。
   大佐の気持ちなんて考えていなかったのかも……。
   私だって、もし大佐が私を庇って怪我をしたら、同じように言うと思います。
   お恥ずかしいことに、今から思うと大佐はあんなに心配して下さっていたのに、
   『気遣って下さってありがとうございます』の1つもまだ言ってませんでした」
  「大丈夫。
   そんなもの、これから腐るほど言ってやればいい。
   きっと、あいつ泣いて喜ぶぞ?」
そう言って満面の笑みを浮かべるヒューズ中佐につられて、ホークアイも今日初めての笑みを浮かべた。
  「今日、中佐と話ができて本当に良かったと思います。ありがとうございました!
   明日、まず大佐に今日のことをお詫びしようと思います」
  「何はともあれ、お役に立てて光栄だ。
   リザちゃんも本音をぶつければ、きっとあいつも分かってくれるはずさ!
   あっ、送って行こうか?」
  「いえ、まだ21時前ですし、自宅もそんなに遠くないので、大丈夫です。
   お気遣いありがとうございます」
  「そうか。なら気をつけてな!俺はもうちょっと、飲んでから帰るよ」
  「それではお先に失礼します」
そうして、ホークアイは店を出て行った。






  「だとよ!」
ヒューズは前を向いたまま少し大きめの声で言った。
すると、後ろの席から黒髪の男がヒューズの隣の席に移動してきた。
  「おい、ヒューズ!
   今日は俺と飲みに行く約束をしておいて、一体これはどういうことなんだ!?」
  「まぁまぁ、落ち着け!ロイ」
実はヒューズはホークアイが書類を提出しに行っている間にロイのもとを訪ね、2人が今喧嘩中ということを知った。
それで「話は後でゆっくり聞いてやるから」とロイを飲みに誘い、先にこの店に行っておくように指示を出した。
そして、ホークアイが書類を提出して帰ってくるのを待ち伏せし、彼女にも飲みに行こうと誘ったというわけで。
ロイとホークアイがここで鉢合わせする危険があったが、おそらくロイのことだから、ホークアイが来た時点でどこかに隠れるだろうと思っていたし、実際そうなったので問題はなし。
完璧な作戦だった!
  「あのな、何が『完璧な作戦』だ!
   しかも、俺のこと勝手に言いたい放題言いやがって!」
  「本当のことなんだからいいじゃねぇか。それに、リザちゃんの本音も聞けたし。
   お前さん、かなり愛されてるねぇ〜vv」
  「う、うるさいっ、ほっとけ!!」
  「へぇー?お前でも照れることがあるんだなー、顔赤いぞ?」
  「酒のせいだ、酒の!!」
  「まぁ、何はともあれ、明日は腹くくってドッカンと気持ちを伝えてこいよ!
   もちろん、言葉はしっかり選べ!
   今回の喧嘩だって、もとはと言えばお前の言い方が悪いせいでリザちゃんが
   『私の存在理由を否定されました』ーってな具合に誤解してたんだぞ?」
  「うっ…!
   それなら一体どう言えばいいんだ!?」
  「そんなもん、自分で考えろ」
  「この薄情者がーっ!」
それからしばらく、ロイは隣であーでもないこーでもないと、ブツブツ言い始めた。
まったく、他の女性に対しては扱いが上手いくせに、本命にはまるっきしダメだなんて、焔の錬金術師ってのも大したことないな!
っと、これは関係ないか。
そんなことを考えながら、ヒューズは明け方近くまでロイに付き合っていた。


おわり




えぇー…、もう何が書きたかったの?みたいな感じですが、書いてる本人は結構楽しかったです!(特に会話とか)
ちょっと、不器用な増田&中尉をコンセプトに…(何じゃそりゃ)
それに、題名の「ぶきっちょ」=「不器用」って全国共通?(汗)ま、いいや(待)
あと、私的希望で、ヒューズと2人でいる時の増田の一人称は「俺」にしちゃいました!
本当に久しぶりに書いたので、どうなることかと思いましたが、とりあえず書けたよっ兄さーん!!(特に意味はなし)
それでは、最後まで読んで下さり、ありがとうございましたv (2005.3.23)


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