1周年



それはいつもと変わらない日。

リザ・ホークアイ少尉が司令部の一室にノックをして入っていく。
そこは彼女の上司である、ロイ・マスタング中佐の執務室だ。
リザが中に入ると、大きな窓から柔らかな朝日が差し込んでいた。
朝の光は体内のリズムを整えてくれる。
今日も1日がんばらなくちゃ、と気持ちを引き締めてリザは挨拶をした。

  「おはようございます、マスタング中佐」
  「ん、おはよう。 少尉、ちょっとちょっと」

ロイが手招きしている。
大きな声では言えないような、何か重大な話なのだろうか?と、リザは足早に近づいた。

  「何でしょうか?」
  「手を出しなさい」
  「……はい?」
  「手だよ、手。手の平を上にして」
  「はぁ」

リザは何が何だか分からないという顔をしたが、とりあえず手を差し出した。
すると、ロイは満面の笑みを浮かべて、優しく囁いた。

  「1周年、おめでとう」

そう言ってリザの手に乗せられたものは四つ葉のクローバーだった。
だが、リザには「おめでとう」と言われるようなことは思い当たらない。
今日は誕生日でもないし。
もしかして軍に入隊した日とか?
そうであったとしても、1周年というのはおかしい。
いろいろ考えてみたが、やはり今日は特別でも何でもない ― いつもと変わらない ― 日なのだ。

  「あの…これは?」
  「プレゼント。君、真面目すぎだから、高価なものだと受け取ってくれないだろ?」
  「それはそうですけども……。
   ですが、それ以前の問題として、祝っていただく理由が分かりません。
   一体、何が1周年なのですか?」
  「あぁ、それは…好きになって1周年記念」
  「?」
  「去年のちょうど今日、私は君に恋をしたんだ。
   だから今日は、私が君を好きになって1年。記念日なんだから、お祝いしないとだめだろう?」
  「……え、あの、それは…?」

リザは思ってもみなかった答えを聞いて、みるみるうちに落ち着きがなくなっていった。
もうすぐ肩に届きそうな眩しい髪を忙しなく撫で付けたり、手の平にちょこんと乗っているクローバーと、目の前で微笑んでいるロイに交互に視線をやったり。
その様子を楽しげに見つめていたロイだったが、とうとう我慢しきれず笑いだす。

  「やっぱり!予想していた通りだ。君って本当に鈍感なんだな」
  「ど、鈍感って…!中佐の態度が分かりにくいのでは!?」
  「あのな、君以外の部下は皆気がついているんだぞ?『中佐は少尉に気がある!』って噂まで流れたのに」

鈍感と言われて、癇に障ったリザだったが、どうやら本当のことらしい。
そんな噂なんて、初耳。
しかも、よく考えれば1年もロイの気持ちに気がつかなかったのだ。
こんなに、誰よりも、彼の近くにいながら。

  「そんな……あの、でも…どうして私が『おめでとう』と言われるのでしょうか?」
  「だって、君がいなければ今日という日は成り立たなかったわけだろう?
   君がいたからこそ、今日という日がある。
   だから、今日の主役は君なんだから、君をお祝いして当然さ」

ロイの言い分は理由になっているのか、なっていないのか。
だが、こうもあっさり好意を寄せられていることを伝えられては、恥ずかしいようで嬉しいようで、なんだかくすぐったい。
いろいろな気持ちが混ざり合って、「おめでとう」や「プレゼント」なんて、もうどうでもよくなってしまいそうだ。

だが、あまりこういうことに慣れていないリザは、こんな時どう反応すればいいのかが分からない。
とにかく、何か言わなければ!という思いで、頭の中を整理せずに口を開いてしまい、いつものリザには珍しく、しどろもどろになってしまった。

  「あの…中佐のお気持ちはよく分かりました。
   それほど長い間、私を見ていて下さり、とても嬉しく思います。
   ですが突然でしたので、その、自分で自分の気持ちがよく分からないと言いますか……。
   あの、どうお答えすればいいのか…」
  「ストップ!」
  「……は?」

突然のロイの制止に、リザは素っ頓狂な声を出してしまった。

  「いや、君を困らせてしまうだろうということは私も承知の上で打ち明けたのだが…
   突然すまなかったな。
   答えは…もしも、君の気持ちが私と同じになったら聞かせてくれ。
   そうでなければ、この先ずっと何も言わないで欲しい」
  「あの?」
  「……早い話が、フラれたくないということだよ。
   この先、望みのない片思いよりも、少しでも希望のある片思いをさせてくれ」

ロイは苦笑しながら続ける。

  「勝手なことを言っているのは分かっている。
   あぁー、自分がここまで臆病者だったとはな、笑ってしまうよ」
  「本当に。 これは大爆笑ですね」
  「……案外毒舌だね、君」
  「そうですか?
   ですが、私が知っている『中佐』でしたら、例え望みがなくても貫き通すかと……。
   寧ろ、望んだものは奪い取ってでも手に入れる方だと存じていますが?」

リザに、真っ直ぐ、射抜くような眼差しでこう言われてしまったら、ロイは呆気にとられた表情で固まるしかない。

  「…まいったな」
  「何せ私も長い間、傍で中佐を見てきていますから。
   それに、大総統を目指すのであれば、多くの民の心を掴まなくてはなりません。
   私1人の心くらい、簡単に動かせるようになっていただかなくては」
  「……それ、口説いてくれって言ってるの?」
  「例えばの話です」
  「…………」
  「何ですか?」
  「いや。
   その辺りはこれから努力しようじゃないか」

少尉の恋愛オンチにはこれからも苦労させられそうだな…と思いつつも、ロイとしては、これからもリザに想いを寄せていても良い、しかも彼女を振り向かせる努力をしても良いと言われたも同然。
俄然、やる気も出てくる。

  「よし! 今日も1日張り切っていくぞ!」
  「その意気で、毎日仕事をしていただきたいものです。
   ……あっ、そういえば、まだ言っておりませんでしたね」
  「?」
  「これ、ありがとうございます。押し花にでもして、大事に残しておきますね」

そう言いながら、リザは四つ葉のクローバーを愛しそうに見つめていた。


その時、ロイがリザにノックアウトされたのは言うまでもなく……。
この調子だと、ロイのこの記念日はずっと続きそうだ。
リザに笑顔を送るために。



遅くなりすぎましたが、サイト開設1周年(2月1日)記念更新です。
1年も続けてこられたのは、皆様のおかげです、ありがとうございました!
久しぶりのロイアイは、こんなんもありかなー?という感じで書いてみましたが、いかがなものでしょう?
後で調べて知ったのですが、四つ葉のクローバーの花言葉は「真実の愛」やら「私のものになって」とかあるらしく…(わー!)
私は花言葉とかには疎いので、そういうのを狙って書いたつもりは全くないのですが…結果オーライ?
とにかく、最後まで読んで下さって本当にありがとうございましたvv (2006.3.1)

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