青く高い空が広がっている。
 日の光もずいぶんと柔らかくなった。
 いつもの散歩道の途中に、橙色の果実を見つけて、望美は思わず足を止めた。
 もう、こんな季節になったんだ。

 「ねぇ九郎さん、見て見て!柿がなってる!」

 望美は隣にいる恋人の袖を引っ張る。

  「ん?あぁ、本当だ。もうそんな季節か」

 さっき自分が思ったことと全く同じことを言う九郎。
 望美はそれがなんだかおかしくて、でも嬉しくて。
 思わず、うふふっと笑えば、何がおかしいんだ?と問うてくる彼に満面の笑みでこたえる。

  「なんだか、熟年夫婦みたいだなぁーって!」
 「なっ…何を言ってるんだ!」

 思った通りの大声に、望美は両耳を押さえる。
 “恋人”と呼べるような間柄になって、それなりの時間を過ごしているというのに、
 九郎はこういう言葉にいつまで経っても慣れない。
 それがなんだかおかしくて、やっぱり望美は笑った。

  「いつまで笑っているんだ」

 少し拗ねたような口調に、望美はぎゅっと九郎の腕に抱きついた。

  「なんでもありません。幸せだなぁって思ってるだけなんですよ」

 お前は、という声が聞こえたが、その腕がふり払われることはない。
 相手の確かな存在を確かめながら、望美は、今ではない時代にいたことを思い出す。

いきなり異世界に飛ばされるわ、神子とかなんとか呼ばれて怨霊と戦う羽目になるわ。
 最初はなんで私が?と思っていた望美も、持ち前の前向きな性格と人懐っこさで、
 あっという間に環境に馴染み、八葉や対の神子と仲良くなっていった。
 そして ――

 あなたに恋をした。

 だからこそ、突然訪れた別れは望美の心を深くえぐった。
 なんだかんだ言っても、望美はまだ17歳。
 今まで、人の死に直接触れる機会はほとんどなかったのだ。
 しかも、それが愛する仲間たち、自分が想いを寄せる相手となればなおのこと。
 それを受け入れられずに、盛大に神様の領域を侵してしまったが、
 諦めずに道を探したおかげで、みんなが笑って生きている“今”がある。
 そこまでしてでも守りたいものだったのだ。
 たとえそれが罪であろうと、望美は自分のやってきたことを後悔したりはしない。

それを支えてくれたのは、隣にいる彼であることに、本人はきっと気付いていない。
 運命を変えたい。助けたい。その思いだけで必死だった。
 だが、現代に生きてきた望美が受け止めるには、この問題はあまりに大きかった。
 焦燥感にかられて空回りすることもあった。諦めてしまいそうな時もあった。
 だけど、そんな私の心を前に向かせてくれるのは、いつだって隣にいるこの人だった。
 無茶で無謀で考えなしで、お兄さんの役に立つことしか考えてなくて、
 鈍感で意地っ張りで、でも、ただ前だけを見ている人。
 どれほど苦境に立たされても、最後まであきらめない。
 自分のことより、仲間のことを気にかけられる人。
 そんな優しさが、そんな強さが、望美をいつだって奮い立たせてきた。
 龍神の神子として、戦う力を与えてくれた。

 望美は、九郎の腕をぎゅっと抱きしめる。

  「望美?」

 強められた力を訝しげに思ったのか、九郎が声をかけた。
 望美は、九郎を見てにこりと笑う。

  「九郎さん」
  「なんだ?」
  「大好きですよ」
 「っ!!」

 ほーら、予想通り真っ赤になった!
 思えば、彼に対するイメージが変わったのも、この照れた顔を初めて見た時からだったかもしれない。
 出会った当初は物言いがキツくて、何なのこの人!って感じだったけれど。
 あの時のように、これからも彼のいろんな表情を見つけていけると思うと胸が躍る。
 その時間はたっぷりあるのだ。

  「……と、ところで、望美」
  「なんですか?」

 あっ、今話題をそらしたなぁ、本当に照れ屋さんなんだから、と望美は心の中で笑いつつ、
 九郎の話題転換に合わせてやる。

  「俺たちはいつまで散歩をしていればいいんだ?」
  「……私と散歩するのは嫌ですか?」
  「そうじゃない!!……ほら」

 そう言って、九郎は自分に巻きついている望美の腕を優しくほどき、小さな手をとる。

  「こんなに冷えているじゃないか」

 九郎は急なことで薄着で出てきてしまったからな、などと言いながら、望美の手を自らの手で温める。
 突然のことに望美は驚いて固まってしまった。
 自分から好きだのなんだの、くっついたり抱きついたりするのは平気だが、
 実は逆のパターンには望美だってまだ慣れていなかったりする。

  「そ、そうですか?……あっ、でも、もうそろそろ戻っていい頃かもしれません!」
  「そうか、なら早く戻ろう。お前が風邪でもひいたら大変だからな」

 そう言って、九郎は自然に望美の手を握って歩き出した。
 本当にこの人は女性に不慣れなんだか、実は慣れてるんだかよく分からない。
 九郎に優しく手をひかれながら、望美はそんなことを思った。

  「それにしても、突然俺たち2人に出ていけとは、将臣と譲は一体何をしているんだ?」
  「ふっふっふっ……それは戻ってからのお楽しみってことで!」
  「?」

 実は今、有川宅では九郎の誕生日パーティの準備が進められているのだ。
 将臣が部屋の飾り付けを、譲がケーキを焼いている。
 九郎さん、どんな顔するかな?喜んでくれるかな?
 望美はウキウキしながら、その時を想像した。
 そして、心の中でみんなより一足先にお祝いをする。


 ハッピーバースデー、九郎さん!




しゅみちゃんとリレーしました!
★=しゅみちゃん、●=私が書いた部分です。
九郎さんの誕生日付近って仕事が忙しくて、毎年何かしたくてもできなかったんですが、
今年はしゅみちゃんの力を借りてお祝いできましたv ありがとー!!
九郎さん、望美ちゃん、幸せになれよ! (2011.11.9)



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