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いかに虫の好かない人間でも時を経るごとにその性質が変わっていくこともある。長くつきあえばなおさら変化は顕著だ。
ほとんど真っ暗な部屋の中、かすかにうごめく人の影はまさしくその「変化」だった。

麻衣と真砂子は救急箱を手にまめまめしく依頼人たちの傷の手当てをしている。綾子は存外子ども好きらしく、葉月を安心させるように笑いかけたりなにごとか話かけたりしている。3人とも多かれ少なかれ傷を負っている。特に麻衣と綾子の傷のなかにはまだ出血しているものもある。にもかかわらず、彼らの表情は穏やかだ。あるいはそう見えるよう努力しているのかもしれない。

かつて扱った事件をリンは思い返す。悲鳴をあげ、不平を口にし、すがるようにナルや滝川を見つめて座り込んでいた彼女たちのことを、リンは諦めていた。自主的に動くということを知らない人種なのだと、そう考えていた。

「リン、手当ては」
物思いにふけっていたリンを引き戻したのは、綾子の静かな声だった。凝ったアートがほどこされた長い爪は欠けてしまっている。
「――いえ、大丈夫です」
リンの怪我は、ほとんどが浅い切り傷だった。断られて、綾子はごく普通に頷いた。悪態をつく気力さえ無いのかもしれなかった。しかし綾子は仏頂面になることもなく、吉見家の人々の間を縫うように動き回っている。

向かってくる死霊に、悲鳴こそ上げていた。けれど逃げなかった。もちろん逃げ場がどこにも無かったということもあるが、彼女たちは立ち向かっていった。可能な範囲で他者を守りもした。

リンは柱にもたれて辺りを見渡した。SPRの人間に関して言えば、座り込んで止まっている者は一人としていない。
「…どったの」
呑気ともとれる声がかかる。振りかえると貧血に青い顔をした滝川が、それでも自らの足でしっかりと立っていた。その姿を見て、リンの口からは素直な言葉が漏れた。
「強いな、と」 思って。
滝川はリンの視線を追った。すぐに、心得たように薄く笑む。
「女、強えーよな」
きちんと意を汲んだ滝川に安堵しながら、リンは疲労にしびれた頭で思う。

自分がこんな風に、呼吸するように自然な会話をしているだなんて、
これも長く付き合っているゆえの変化か、それとも。










2007/8/7




「女強えーなァ」は、映画「フラガール」でトヨエツが言ってた台詞。
吉見家ゾンビ来襲の夜。














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