あたしの人生、捨てたもんじゃないかもしれない。
不幸あれば幸あり
「いった!爪割れた!」
「ー、ちゃんと爪切ってきたのか?」
「切ってきましたよ!あ、血が・・・!」
「保健室行って手当てしてもらってこい。」
「はーい。」
明日から体育の授業はバスケだ。爪切ってこよう、そう思ってちゃんと爪切ったのに。なんで割れるんだ。そしてなんで流血までしてるんだ。
そしてなんで体育館から保健室まで遠いんだ。血垂れちゃう・・・!
「失礼しまーす。せんせー、爪割れちゃ・・・あれ?」
「あ、さん。どしたの?」
「バスケしてたら爪割れちゃって・・・先生は?」
「なんか今電話で呼ばれて行っちゃってさー。あ、俺手当てしようか?」
「いえいえ、いいです!自分でやる!」
「そう?」
びっくりした。なんで先生いないの・・・!そしてなんで栄口君がいるの・・・!あー、本当心臓止まるかと思った。心臓まで止まったりなんかしちゃったら不幸すぎる女の子になっちゃうよ。危ない危ない。
にしてもなんだこの絆創膏。ぐにゃぐにゃになっちゃった・・・あ、栄口君見てる!うわー、恥ずかしい!すごく恥ずかしい!穴があったらすっ飛んでいきたい・・・!
「あのー、俺、やろうか?」
「ご、ごめん・・・」
「いえいえー。」
部活でもたまにやるから慣れてるんだよね、なんて優しい声で喋る栄口君は本当にいい人だと思う。誰にでも平等に優しくて、それでいて野球してる時はすごくかっこよくて。つまりはあたしの好きな人なんだけれども。
栄口君に触られたら、絶対真っ赤になって手汗とかやばいと思ったから自分でやるって言ったのに・・・ああ、やばい。熱い。熱い!
「さん、大丈夫?」
「へ?」
「顔真っ赤だけど・・・」
「あ、うん!バスケ頑張ってたか、ら!」
「バスケ楽しい?」
「楽しいよ!ところで栄口君はどしたの?」
「ああ、俺?サッカーでころんじゃって膝すりむいちゃってさー。」
情けないんだけどね、なんて言って眉をハの字にして笑いながら長ズボンを捲って「派手にやっちゃった」っておっきい絆創膏が貼られた膝を見せてくれた。
「え、大丈夫?!」
「先生に手当てしてもらったから大丈夫、大丈夫!」
「お風呂とか入ったら沁みそうだね・・・」
「うわ、絶対痛い!」
今日はシャワーかな。あ、でもシャワーも痛いかなあ・・・なんてぼそぼそと喋ってる栄口君を見ながら、あたしは夢でも見てるんじゃないかと疑ってしまう。こんないいことがあっていいものだろうか。今日の帰り道、事故とか遭うかもしれない。カラスにいじめられるかもしれない。犬に追いかけられるかもしれない。
「ね、ねえ!」
「あ、はい!なな、なに?」
「そのー・・・さんは好きな人とかって、いる?」
え?なんでそんなこと聞くのかな?あれ、もしかしてもう失恋?まさか失恋?どうせなら失恋より犬に追いかけられるほうがマシだ。よっぽどマシだ。
「あー・・・まあ、うん。いる、けど。」
「そ、そうなん、だー・・・」
「う、ん。」
気まずい。どうしよう、かなり気まずい。ここは退散した方がいいかな?うん、そうしよう。さっさと逃げてトイレで泣いてやる!
「え、と・・・あの、そろそろ戻るね!」
「ああ、うん。お大事に・・・」
「じゃあ、ばいばい。」
ドアを閉めかけたその時、バン、とドアを押さえられて閉める事が出来なくなる。もちろんあたしの動きを封じたのは栄口君で。
「やっぱ、だめ。」
「え?」
「さっき、本当はもうグラウンド戻ろうとしてたんだ。」
栄口君はドアを押さえたまま、あたしの目を見て続ける。
「でも、さんがこっち来るの見えたからやめた。」
「え、あたし?」
「怪我してるっぽいし、先生もいないから心配で。」
やっぱり栄口君は優しいなあ、なんてのんきに思っていたらいきなり手首を掴まれて、思わずビクリと反応してしまう。そのまま手を引かれて保健室に逆戻り。
「それに、さんと二人っきりになりたくって。」
耳を疑った。目を疑った。
目の前には真っ赤な顔で目をキョロキョロと泳がす栄口君がいて、そしてあたしの耳にはさっきの言葉が残っていて。どうしても自分の都合のよい方へと考えてしまう。
「やっと二人っきりになれるチャンスだから。」
泳がしていた視線は、今はがっちりとあたしを捉えて離さない。離そうと思えばできないことはないのに、逸らすことができない。
「俺、さんのことが好き、です。」
「ああ、あた、あたしも!栄口君が好き!」
かんだ。カミカミだ。だけど言えた。言えた!犬に追いかけられるわけでも車に轢かれるわけでもなく、そしてカラスにいじめられるわけでもない。あたしは栄口君に告白された。告白されてしまったんだ。そして返事も言えた。すごい。今日のあたし、なんかすごい!
「じゃ、じゃあよろしく!」と栄口君が手を差し出してきたので、何故かわからないけど握手をして、そのまま保健室を出た。
手を繋ぎながら歩く廊下は、なぜか輝いて見えた。
2007/12/12 栄口が死にそうなくらい好き! bashi