Story

三十三間の闇

2 (2/4) 18禁

 

「若い身体は正直だね」

立花は愛しげに岬のものを口に含んだ。

それをするのが好きだからなのか、岬がそれを喜ぶからなのか、立花は口淫を好んだ。

立花はそれを口の中で転がした。唇を窄めて強く吸う。先端を歯で噛みしだき、それから咽喉の奥に深く飲み込んだ。

息苦しいくらいに、岬は張り詰めていた。

すぐにでも放出してしまいそうだ。

夢中で岬を頬張る立花の貌を見つめていると、その顔にぶちまけたいという欲望が急に湧き上がる。

立花のような大人の男に愛されていることが、逆にそのような嗜虐的な欲望を齎すのだろうか。

「ああっ…もうっ…、だ…め…」

そう思った途端に、体が震えた。声を出した時には間に合わなかった。

立花は咽喉の奥深くに岬を含んだまま、岬の精を受け留めた。

 

「…すみません」

「構わないよ」

バスルームから戻って来た立花は、変わらない落ち着いた態度だった。

「君のものなら」

そう言って、岬の唇に軽く触れた。

彼はまだ欲望を遂げていない。岬を欲しいのだ。

岬を後ろ向けにして、肩や背中をゆっくり愛撫し始める。

立花は急がなかった。

岬が差し出した尻を、丹念に舐め始めた。

岬はベッドに両手をついて、体を支える。

立花の情欲に応えることはむつかしいことではない。いくらでも尻を差し出す。

けれども立花は、それを、出来るだけ岬の負担にならないようにと気を配っているのだ。

そこを指と舌で潤して岬の身体を解し、昂めてゆく。

既に度重なる交りで後淫に慣らされている肉体は、立花の動きに反応して、悦楽を求めている。
それが、立花を喜ばせる。

岬が昂ぶり、官能に悶えるさまを見ることは、立花の歓びなのだ。

尻だけ突き出して立花を受け入れながら、岬は鈍く呻いていた。

殆ど反射だった。稚い身体が獣のように貪欲に、快楽を貪るのだった。

 

***

 

美術工芸大学のキャンパスを歩き、女子学生を視線で追うたびに、もう止めようかといつも思う。

ほかの学生のように、女の子と普通に付き合い、恋人と通りを並んで歩く。

そんなことがしてみたい、と思う。

声をかけさえすれば振り向いてくれる子がいるはずだ。

けれども、今獲得している立花との甘美な快楽は何にも代え難く、岬を魅了していた。

立花は岬のパトロンだ。彼に忠実でいたいという思いもある。

 

(立花に知られずにいれば構わないのではないか)

岬はそんな風に結論付けた。

立花だって、岬が本来ゲイではなく、普通の、女性を好きなストレートだということを分っているはずだ。

立花には細君さえいる。ならば、自分も上手く立ち回り、ガールフレンドを作ったとしても咎め立てることは出来ないだろう。

こんなに弁解の言葉をあれこれ並べるのは、疚しい思いがあるからかもしれない。そうも思う。どこかに、負い目を感じている。

 

キャンパスを抜け出してバスに乗り、銀閣寺道で下車して疎水べりを二人で歩きながら、そんなふうに考えていた。

真冬の昼間だから人は少ない。そして、寒い。

それでも白沙村荘の庭を見て、哲学の道に辿りつけば、岬は満足感に満たされた。

彼女とは、キャンパスで知り合った。

センスのよい美人。岬の理想だった。

心にしくしくと割り切れないものを抱えていたが、彼女と歩くうち、いつしかそれは消え去っていた。

途中で甘味の店に入り、汁粉など食べて暖まると、デートの実感が湧いた。

彼女は愛想が良くて、良く笑った。

自分を誘った相手に満足しているようだった。

甘味の店からもう少し南まで歩きながら、彼女が抹茶ソフトが欲しいと言った時は、二人で馬鹿みたいに笑い合った。

―こんなに寒いのに?

―だって、一生懸命歩いているうちにかっかして、火照って来たんだもん。

 

楽しかった。

夕方になってキャンパスへ戻ってからも、余韻が残っていた。

こんな普通の青春も、自分に許された楽しみではないのか…。

彼女とこれから、いろんな所に行きたい。時を共に過ごして、気持ちを分かち合いたい。

女の子と付き合うにはお金が要る。もしもっと深く付き合いたいならかなり出費になるだろう。

立花と付き合う時には一切心配しなくても良かったことを、あれこれ考えなくてはならないのは煩わしかったけれど。

 

***

 

先週は金剛流の能を能楽堂に見に行き、今週は野村美術館で焼き物の展示を見た。

いつぞや雪が降った時は、俗だねと言いながら金閣へ連れて行かれた。

食事には瓢亭、順正、寂光院の落慶法要の帰りに平八茶屋へも連れて行かれた。

立花の趣味は渋い。

グラフィック・デザインの仕事をしたいという岬の役には立たぬことは分かっているが、と言いつつの立花の口車にいつの間にか乗せられて、彼の趣味に付き合ううち、岬にもその渋みが何となくの面白味に映って来る。

無理強いするわけではない立花は、それでいて、岬をいつの間にか捉え、巻き込んでいる。

それが、立花の付き合いのスタイルだったのだろう。

クラスのあるやり方。男。

だから、立花との付き合いも逃したくない。

しかし巻き込まれるうちに深みに嵌って、二度とそこから逃れ出ることが出来なくなるのではないか。そんな不安もあった。

動揺を、立花の前で隠し通すことは気力が要り、疲れる。

頻繁には会いたくない。

けれども立花はそんな岬の心を知ってか知らずか、頻りに岬を誘って来るのだった。

旅館の主人のくせに、というか、だからこそなのか、逢瀬にはホテルを選んだ。
旅館へ行くことも時にはあった。

南禅寺近くのその旅館へ行ったのは、北野の梅花祭の頃だったか。

 

「たまには畳の上で君を抱いてみたい」

と立花は言った。

熱い息で唇を塞がれ、肌に愛撫を加えられているうちに、稚い岬の身体は素直に反応し、彼の男はすぐに天を衝いた。

岬は身体を差し出して立花に奉仕した。

後ろを突いて来る立花の動きに合わせて尻を振る。

いつになく、立花の攻めが激しかった。

揺さぶられて、身も世もなく派手に喘いだ。

それがいっそう立花を駆り立てるのか、岬の中に、容赦なく幾度も楔が打ち込まれ、その硬く熱いものが岬の身を灼いた。

岬は自分の股間を玩弄しようとしたが、立花がそこに手を伸ばし、激しく扱き立てた。

「うっ…」

激しい快感が全身を貫いてゆく。

熱い炎が身体中を駆け巡った。

 

その部屋の床の間には壷が置かれ、掛け軸がかかっていた。

雪の積もった寒椿と鶏の図。

障子の仕切り。草色の砂壁、欄間の彫刻。

「君はとても素直だ」

と立花が言った。

「体も、情欲も正直だ。嘘をつかない」

―僕なんか、若いだけでなんの取り柄もないのに。

そう、訊いてみた。

若ければ、誰でも良かったのではないか。そんな気がして。

布団の上に横になって肘をつき、優雅に煙草をふかしている立花を見ていて、ふと、思いついたことがあった。

「立花さん…」

「何?」

怪訝そうに、立花が首を傾ける。

「僕が立花さんを抱きたいと言ったら、抱かせてくれますか」

 

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