Story

鴨川慕情

3 (3/5) 18禁

 

「何なの、これ」

「だから茶菓子」

「こんなものを手切れ金代わりにしようってわけ」

「まあ、そう言うなよ」

それでも右京が会ってくれたのは、人のよさからなのだろう。そこが右京の良さだ。

「何なら茶せんに茶勺に、抹茶茶碗と柄杓もつける」

「素人が選んだものなんてだめ。プロに失礼よ」

「すまん」

「そんなにあの子が良かったの」

「…。良かったって言うか…。何かほっとけないって感じかな…」

「それって、ノロケ?」

さすがに右京はぷんぷんと怒った。

二人が待ち合わせに使っているホモバーは、大宮近くの、地下を降りて入る店だった。

表向きはそれとは分からない普通の作りをしている。給仕も特別な者ではない。

客だけが意味ありげな、鋭い目つきで相手を探す、京都に数少ない店なのだった。

「まあさ、あたしだって片思いの本命が全然振り向いてくれないからさ。しょうことなしに、とりあえず本郷ちゃん、ってとこはあったけどさ」

「んー、まあ、そういうことだね」

「だからさ、譲るわよ。今回は。すぐに振られて戻って来ると思うけどね」

「ありがとう。感謝するよ」

右京とは奇妙な関係だった。

忠弘にとっては、手前勝手だが、お互い本命が見つかるまで、という暗黙の了解もあり、肉体関係よりも、同志的気分が強かったのだ。

右京に忍との首尾を報告したかった。
無神経だとは思ったが、それよりは既に、同じ穽の狢の気持が勝っていた。

「これ、本郷ちゃんのとこのお菓子?」

「いや、違う。デパートで買って来た。どっか、老舗」

「何だかなあ…」

右京が包み紙を開ける。

「俵屋吉富の雲龍」

 

 

 

ビジネスホテルに一人だけチェックインし、部屋に入ってから忍に連絡した。

忍は日曜も店があるから、定休日の前の水曜日の夜に、誘った。

会社のある御池からホテルは近い。さすがに、人目が気になった。もう同じホテルは使わない方がいいだろう。

同僚同士が、会社で、この前の休みにここで見かけた、というような会話を交しているのを何度か聞いて、京都という町が想像以上に狭いということに、やっと気がついた。

忍は最初の夜よりは落ち着いているようだった。

部屋の中の忠弘を見た時、安心したような、嬉しいような表情をした、ような気がした。

「これは?」

「ウチで今度出すお菓子。意外と上手いんだよ」

箱の中の、幾包みかを忍が手に取る。

「パイ?」

「柔らかい生地の中にこしあんが入っている。あずきパイというか」

「こういうの、作っているんですか」

「うん、そうだね」

「甘いのがお好きなんですか」

「まあね。…君は?」

「…母が好きです」

「…」

会話が途切れた。

忍が下を向いた。

 

何となく、忍の気持が分かって来たような気がした。

心を覆い、隠そうとしていると思う。だが沈黙がかえって心の奥を垣間見せる。

それを探り取ることが、忠弘のすべきことだと思った。

「抱いて下さい…。早く」

忍が座ったままで言った。

罪悪感から逃げたいのだと思った。

 

*

 

「ちょっと待ってくれ。コンドームを…」

「僕なら大丈夫です。僕は誰とも…」

「う、うん、そうは言っても…」

「それとも本郷さんが」

「違うよ。…そんなに言うなら…」

忠弘は忍の上に乗り、体勢を取った。

「エチケットだと思って。こういうことは」

「…」

「生出しして欲しいの、なんて」

「…」

忍の脚が、忠弘の体に絡む。次の瞬間を、忍は待っていた。

忍の肩に顔を埋めながら、忠弘は夢中で腰を動かした。

忍の身体を気遣うつもりでいながら、つい激しく動いていた。

忍の内部が徐々に忠弘に合って来て、熱っぽく絡みついて来る。

狭い中をこじ開けて、忍を蹂躙してゆく快感に忠弘は酔った。

忠弘の頭をきつく抱えながら、忍は小さく呻いた。

 

一度で済まなかった。

忍の尻を抱え、もう一度深く侵入する。

再びそこが熱く昂ぶり、忍の尻を抉り続ける。

触れ合っている忍の身体が熱かった。尻を振って、忠弘の動きに合わせていた。手は忠弘の尻を掴んでいた。

奥まで打ち込む度に、もっと忍を所有したいと思った。

もっと忍を乱れさせたいと思い、もっと溶け合いたいと思った。

 

 

自分のマンションに忍を呼ぶことにした。

その方が安全だ。

忍は西京区のマンションを借りているというが、松尾印判からは、忠弘のマンションの方が近い。

「富小路仏光寺…。上がるだったかな、下がるだったか…。京都ってややこしいね」

「その辺なら、磔磔があったように思いますけど…」

「ああ、あるある。何なの、あそこ」

「ライブハウスです」

「ええっ?でも奥まった、きたない倉庫みたいな感じだよ」

「蔵を改造したとかですよ。昔からある。一度行ったことがあります」

「へえ、ライブとか行くんだね」

「その時は落語でした」

「えっ。落語」

「何でもやるんです、そこ」

その磔磔の看板が見えて来て、忠弘のマンションに着いた。

5階建てのマンションの4階、4号室であった。

「俺はそういうの、気にしないから。てか、そこしか空いてなかったのもあるが」

窓からはごみごみした裏通りが見える。墓場もある。そのすぐ隣はコンクリートのビルだ。

「ここ、以前は確か、大きい町家でした」

窓の外を見ながら忍が言った。

「失火して、全焼して、一人暮しのお年寄りがその時亡くなったと聞きました。そのあとにこのマンションが建ったんですね」

「町家か。…今ブームだねえ」

「でも年々無くなっていってる」

忠弘は忍に近づき、後ろから身体を抱き締めた。彼の項に舌を這わせた。

「京都はだんだん変わっていく。…だんだん、他の町と同じになっていく。京都でなくなっていく」

忍は忠弘を拒まず、されるがままに愛撫を受けていた。

「君は根っから京都人なんだね」

「しがらみから抜け出られない京都人です」

「…」

忍は忠弘の手を解いて、忠弘に向き合った。

「本郷さんは僕を解き放ってくれる」

「ははは、どうかな。…君を堕落させるだけかも」

「構いません…」

 

マンションはリビングと寝室の2部屋で、新しいからまだきれいだった。

リビングのソファの上で、抱き合った。

ソファの背もたれにもたれかかり、下半身だけ露わにして、忍は忠弘に抱かれた。

忠弘も、下半身だけ脱いでいた。

まるで我慢出来ないと言うように性急に、獣のように交わった。

明かりをつけたままだった。

忍の昂ぶったものが忠弘の腹に当たる。それも快感だった。忍のそれを圧して搾り取ることも歓びだった。

本当に獣だなと交わりながら思った。

激しく求め合うことで切なさはいっそう増した。

何をこんなに身も世もなく我を忘れて交わるのか。

忍を絶頂に導いたあとでも忍を所有したという実感がないからか。

交わっている間は彼を所有しているという実感があるからか。

その歯がゆさのゆえなのか、もっと喘がせ、もっと狂わせて、忍に自分を刻みつけたいと思う。

狂ったように忍を揺すぶる。

焦燥のような気持に支配される。

忍もついに、大きな声を発した。

 

***

 

「獣みたいだね、俺たち」

冗談めかして、忍を後ろから抱き締めた。首筋から、頬へと唇を滑らせる。

「風呂へ入れよ…。そのあと、ベッドでもう一度どう」

忍は無言で忠弘の唇の愛撫に応える。

忠弘は片方の手で忍の胸を抱き、もう片方で忍の髪や、頬を愛撫した。

忍に触れていると、幸福感が満ちて来た。

忍を、自分の腕の中に抱いている間は、彼を所有していると思うことが出来た。

やがて忍が唇を離して忠弘へ顔を向ける。

「…元気ですね」

「君も若いだろ。何度でもしたいんじゃないか」

「…出来ると思う…」

忍が忠弘の腕の中で薄く笑う。

忠弘は、忍の頭を肩に乗せさせ、自分も幸福感に酔いながら笑った。

 

 

「…大丈夫?」

「本郷さんは慣れてる」

「―夢中になって、君を傷つけないかと心配だ」

「…」

「慣れてるわけじゃないよ。俺を遊び人だと思ってるかもしれないが、これでも一途なんだ。…ゲットした相手を放したくない。嫌われたくない」

忍は無言である。

「君は不思議だ。どれが本当の君なのかな。考えてしまうよ」

「…どうしてですか」

「その、抱き合っている時は不安はないんだよな。…俺のものかなと思える」

「…」

「…けど普段は何を考えているのか分からないから」

 

忍は少し考えて、

「長い間に感情を表に出すことが恐くなったのかも…」

と言う。

「どうして」

「…さあ」

「君はずるい。京都人ていうのはこうだ。…君は3代か、4代…?」

「4代です」

「じゃあ、無理ないか」

「何が?」

「心に鎧を着るのも無理ないと言うことさ」

忍がうっすら笑う。

「本郷さんみたいに明るくない。暗いんです。それだけです」

「俺には謎めいて写るよ。君は、俺を見てないような気がする。どこか遠くを見ているような気がして」

「…そんなことありません…」

忍は眉を顰めた。

「でも心までは裸にならない。預けない…よね?」

「怒ってますか」

「…いや。」

「怒ってるんでしょう」

「…いや。そんな権利はないから」

「それなら身体だけの関係で、いいじゃないですか」

「君はそう思ってるのか?」

「本郷さんがそのつもりだから、僕もそのつもりです」

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記述はフィクションです。

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