考古学の掟
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ボーイズラブ・ショートストーリーです。 抵抗のある方、他人のイマジネーションを受け入れられない方は、ここからは読まないで下さい。 |
資料室には須恵器や土器の断片や破片が散らばっていた。それは教授の専門が古墳時代前期であることを示していた。
これからそれらの断片をジグソーパズルのように繋げてゆき、形作る作業をしてそれぞれの立体に組み立てて行かなければならない。気の遠くなる作業が待っていた。夏休みの日曜日、しかしその資料室は教授と淡路直樹のほかは誰もいない、深閑とした空間であった。
教授は直樹の頬に触れた手を、その肌の感触を確めるように離さなかった。
突然のことに、直樹はその手を振り払うことも、そのほかの対処の仕方も頭に浮かんで来なかった。
教授は触れたその手を優雅な仕草で直樹の顎にずらすと直樹の顔を自分に向け、彼の唇を塞いだ。
何をされたか、咄嗟のことに分からなかった。
手が背中に回され、同時に唇をこじ開けられて貪られた。
女に対してさえまだしたことのない激しい愛撫を、直樹は否応無しに体験させられた。
「何をなさるんですか」
教授がようやく唇を離したあと、相手の顔を見ることも出来ないまま、直樹は抗議した。
「言っただろう。君が美しいからだ」
落ち着いた声で、教授はそう答えた。
そしてくるりと直樹から背を向けると、教授はドアを開けて資料室を出て行った。
それきり教授は戻って来なかった。
今のは何だったのだろう、と直樹は考えた。
考えてもまとまった答えは出て来なかった。ただ貪られた唇の熱さと冷静なままだった教授の面影が残っていた。
セクハラ…
という言葉が思い浮かんだ。直樹は資料を分類し続けた。その日、教授は戻って来なかった。
***
それから一週間、教授は資料室に来なかった。なぜかは考えなかった。
直樹は資料室で考古資料を整理しつづけた。
冷房を効かせた資料室で土器の破片を触りながら、時おり、それが発掘された灼熱のフィールドでひたすら作業に励む仲間を思い浮かべた。
時おりあの時の教授を思い浮かべた。一週間経って教授が資料室に来た。
「まだやってるのか」
そっけなく教授は聞いた。
「そんな…」
「自分がやれと、仰ったではありませんか」
直樹は抗議した。
「もういやになって、来ていないかと思った」
教授は、机に座ってノートに破片のデータを書き始めた。
「もういいから、帰りなさい」
ノートに書きながらそう言った。
「え…」
教授の言葉に直樹はまた驚いた。
「もう来なくていい」
教授の言葉はいつも唐突なので、直樹が瞬時に理解するのは困難だった。
理解など出来ないのだ、理解などしなくていいのだと気が付いたのはずっと後のことだ。
「でも資料の整理が」
「他の生徒でもチューターでも、やってもらえる者はいる」
「そうですか」
直樹は納得した。
納得したのは自分の仕事が代替のきく作業で、フィールドに出なくていい口実のためだったということだった。「…では、失礼します」
「淡地」
「はい」
ドアに手をかけながら、直樹は振りかえった。
「悪かった」
教授が謝った。
直樹はまた混乱した。混乱して、一瞬立ち尽くした。何と言っていいか分からず、何も返事をしないままドアに向き直った。
いつの間にか教授が直樹の後ろに立っていて、半分開きかけたドアを再び閉めた。
そして直樹を背後から抱きすくめた。
「教授」
教授が唇を塞いだ。
強い力で、床に押し倒された。「教授は、自分の生徒にいつもこんなことを」
教授の目には瞬間怒りが灯ったように見えた。
「そうだ。単位と引き換えに。時には就職を世話することを約束して」
Tシャツを引きずり上げられて手枷にされ、ジーンズを引き摺り下ろされた。
抗うことはしたが、その度に唇を貪られ、股間を刺激されて力を抜かれた。
「セクハラで訴える」
「構わないよ」
教授の言葉には、どこか艶と諦めが同居していた。