考古学の掟
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03/10/10
突然のショート・ストーリー 登場する人物・団体はすべてフィクションです 3部(7kb, 6kb, 6kb) もちろんボーイズラブ・ショートストーリーです。 |
淡地直樹がフィールドへ行くと、そこで発掘作業を指揮していた教授が、彼の顔をまじまじと見ながら、
「君は来なくていい」
と言った。
「来るな、資料室で整理でもしていろ」
とも。
考古学の授業で、フィールドへ出て、発掘作業を手伝うと単位が貰える。
それが授業の代わりなのだ。
発掘に参加しないと授業に出席したことにならない。他のゼミの学生は、一般教養の学生ともども発掘に参加しているし、みな真っ黒けになりながら箒様のものやスコップでただひたすら、土を掘り返している。
少し定時には遅れたものの、それが直樹のペナルティになるほどのことなのだろうか。
教授のにべもない言葉に深く傷つきながら、彼は手に持ったスコップを持て余した。
昼休みが済んで、みなが再び作業を開始した。
直樹もその中にいた。
教授が帰れと厳命したにも関わらず、彼は勝手に発掘を手伝った。
今更おめおめと引き帰せないし、単位が貰えなくなるのがいやなので、断わりなく参加したのだ。
それは、教授の命令が理不尽だという、抗議の意味もこもっていた。その直樹の姿を見つけて、教授が近寄って来た。
「おい、淡路、お前は帰れと行っただろう。なぜまだいる」
教授は、毎日フィールドにいるから黒く日焼けしている。
その顔にタオルを巻き、その上からつばの広い帽子をかむり、サングラスをしている。
まるでかかしのようだ。「なぜ、僕がここにいてはいけないのでしょうか。参加しないと単位が貰えないのです。それにゼミの連中は皆参加している」
教授は、憎しみさえこもったような鋭い視線を直樹に向けると、言った。
「いるなら、これを巻け」
むっとした表情で手に持った、真新しいタオルを彼に差し出した。
そして無言で去って行き、自分の担当していた定位置に戻り、そこで何事もなかったように地面を掘り始めた。
直樹には、なぜ教授がそれほど自分を厭うのか、訳が分からなかった。
今日初めてのことだ。
彼のゼミの教授だが、これまで一度も言葉を交わしたことがない。
授業での質問や、ディスカッションではひとこと二言交わしたかもしれない。
しかし特に印象に残る言い合いなどはない。教授に嫌われるような発言をしたことも記憶にない。
そもそも嫌われるほどに多くの接触をしたことさえまずなかったのだ。夏休みに入って、教授が参加している遺跡の発掘を学生が手伝うことになった。
あらかじめ、それも授業の一環として登録されていた。それをなぜ?教授の態度は謎だった。
***
日曜日になり、発掘作業は休みになった。
直樹は、大学の総務に連絡して教授が資料室にいることを聞きつけ、資料室に出向いた。
教授に直接抗議するためだった。
単位が取れなくなると、卒業出来なくなる。何か悪意が感じられた。
資料室には雑多な発掘品がテーブルにばらばらに並べられ、ラベル分類をする途中の、ガラクタのように見えるそれらが所狭しと場所を占領していた。
木枠の背の高い棚がいくつもあり、そこにもツボや、茶碗のような出土品が並べられていた。
教授は、棚の影にノートを持って、何かを書き込んでいた。
直樹は、いきなり切り出した。
「あの…。やっぱり僕は発掘の手伝いをしたいのです。なぜ僕は来なくていいと仰るのか分かりませんが…」
「単位が欲しいのか」
教授は、相変わらずむっつりした調子で、いやいやという風に答えた。
「そうです。」
言ってすぐ、印象が悪くなったかと思い、
「それだけではありません。現場へ出て、発掘を体験して、じかに考古学に触れたいのです。教授もそう仰っていたではありませんか」
そう付け加えた。
「君は出て来なくていい。単位はやる」
そっけなく、教授は言った。
「!? 単位を?」
直樹は混乱した。
発掘に出ず、単位はくれる?
「そ、それはどういうことですか。単位をやる? 発掘に参加しないでですか?」
「君はここで資料の整理をしていろ。このグループの発掘担当はあと4日。それからは別の学生が交代で担当する。4日間、ここで資料整理をするのだ」
「で、でも…。」
資料は山ほどある。たった4日間では到底無理だろう。
「無理なら夏休みを返上してやり続ければいい。私も手伝う」
「そ、それが発掘に参加しない代わりの作業ですか?」
「そういうことだ」
「それで、単位を貰えるのですか」
「そうだ」
「でも、なぜ」
「なぜか、だと?資料の整理も、誰かがやらなければならん」
「それはそうですが…」
直樹はなおも食い下がった。理由は分かったのだから、そこで下がるべきだったのだろう。
だが釈然としないものを感じ、彼は言い募った。そして、それが思わぬ方向へとことを転がして行った。
教授は直樹の怪訝そうな顔を見ながら、
「今の時期に外に出ていると私のように日に焼け、肌は火傷したように爛れぼろぼろになる」
教授の肌は、確かに連日フィールドで日に照らされ続け、赤黒く変色していた。夏の発掘は、過酷な作業であった。
「君は日に焼けてはいけない」
教授はそう付け加えた。
「は…?」
思わぬ労りの言葉に、直樹はうろたえた。
「君の肌は、美しいからな」
いつの間にか、教授の手が直樹の頬に触れていた。