紺青の海2
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05/9/23
6
浴室で挑まれたあと、ベッドでもう一度、抱かれた。
床にはソファから落ちた、遙の買って来た書物がビニール袋とともに散らばっていた。
男のマンションは生活臭があまりなかった。
部屋は新しく、家具は少ない。
冷蔵庫にはさしてものが入っていない。
清潔で、散らかってはおらず、塵や埃も汚れもなかった。
寝室のカーテンは上品なベージュで遮光性だった。
抱いたあとも男は遙を離さなかった。
身体をぴったりと密着させて、遙の身体をまるで女のように抱き、ゆっくりと愛撫していた。
「お、女の人にもこんな風にしてるんですか…」
掠れた声で、男に問う。
ここは女の部屋ではなかったかと、思った。
この男は遙にまでこのように巧みな愛撫で酔わせるのなら、女にも強いだろうと思う。
「そや。お兄さんはタラシやからな」
「タラシ…?」
「女は喜ばさなあかん。始めはええ気持ちにさせたる。とことん喜ばす。ほな言うこと聞きよる。それから自分の思いどおりにする」
男の低い声が、まるで遙をあやすようにも聞こえる。
「…ぼ、僕に無茶苦茶したのは…」
変化のない男の顔を盗み見ながら、遙は言った。突然自分の悲惨な立場を思い出して、みじめな気持ちになった。
「…男だから、…」
「…それはアメとムチや」
男の指が遙の耳たぶを弄る。
「言うこと聞かな無理矢理聞かす。聞いたら優しィしたる」
「…きらいでも優しくするんですか…」
「きらい?」
「―僕みたいなのが、一番嫌いだと…」
男は半身を起し、鋭い眼で遙を見た。
しばらくして思い当たったように、言葉を継いだ。
「あれはああいう時の慣用句や。本気にしたんか」
「……」
遙の気持ちに動揺が走る。
本気も何も、男は遙をそう言って恫喝し、執拗に脅したのだ。
そのせいで遙の心は傷ついた。面白半分にからかったにせよ、遙はむごい言葉の暴力を浴びたのだ。
「―僕を憎んでいるから、ボロボロにすると……」
「ふん」
「そ、それに安さんが言ってた…」
「安が?」
「安さんが、僕がお兄さんの気に障ったから…とか…」
「安はな、安田というのが本名や」
「あっ。…す、すみません。…お兄さんが安と言っておられるから、つ、ついそれが名前だと…」
しどろもどろになりながら弁解したら、男が面白そうに遙を見つめていた。
「気に障ったんやない。気に入ったんや」
男が自然な動作で遙の頭を抱いて、唇を近づけた。
遙は手で男の口に蓋をして、必死で逃げた。
気に障ったも気に入ったも、男の一方的な言い分なだけで、こんな有り様は遙には降って湧いたような迷惑そのものだ。
男に腹が立った。急に幻惑が解け、男への憤りが爆発しそうになる。
男が手を簡単に払いのけ、遙を掴まえて唇を塞いだ。
遙の指に、自分の指を絡めて遙の手の動きを封じる。
そのまま、濃厚な愛撫を遙の唇に加えた。
「大人しせえ。…ええな?」
「……」
沈黙するということは、了解したことだ。
思い出した。
遙には、否を言うことが出来ない。
その代わり、了を言うことも出来ない。沈黙するしかないのだ。
男は、遙の何も身につけていない裸の身体を開いた。
もう一度、挑まれる。
男の好き放題に、身体を支配されるのだ。
*
男の身体はすぐに閉じてしまう、慣らさないと、いつでも受け止められる身体にならない、
そのようなことを言いながら、男は遙に侵入して来た。こんなことに慣らされるのは嫌だが、慣れる方が楽だとも思える。
男の睦言はぞっとした。
甘い言葉を囁かれるたびにむかついて、咽喉の奥から吐瀉しそうになる。もっとむかつくのはその睦言に乗せられ、溶かされる自分だ。
「おもろいやつやな。ワシに敬語使うのか」
男が緩慢に動きながら、低い声で囁いた。
「―だ、だって、…目上の人…だし…、」
あがりそうになる荒い息の中から、必死に言葉を手繰り寄せる。
男がうすく笑う声がした。
男が遙の背中に腕を回して、番ったままで遙を抱き起した。
男の上に乗せられる。
「うう」
腹の中で男の一物の位置が変わり、腸壁を擦られる。結合が深くなった気がして、呻いた。
男が下から突き上げる。
「ううっ」
衝撃で、後ろに倒れそうになった。
「首につかまれ」
男が遙の手を掴み、自分の首に巻きつけた。自分は遙の腰を掴んで、さらに引き寄せて密着させる。
さらに片手を後ろについて、腰を動きやすくした。「あ…、うっうっ」
身体がどんどん熱くなる。男が動くたびに身体中が炎のような灼熱で煽られ、自分の中心に集まってゆく。
「う…」
何か言おうとするが、舌が縺れて言葉にならない。
男が遙の尻をしっかりと抱えながら腰を深く穿つ。
倒れそうになるのを、男の首に掴まって必死で怺える。
すると、腹の中を圧しているものがいっそう深く感じられ、身体がより熱く火照ってゆく。
際限がないのだった。
遙の前はいつの間にか硬く張り詰めている。
見られていると思うと、羞恥で身悶えしたくなる。
そこを玩弄されたいという思いも溢れて、いっそう羞恥に染まる。
このままでは、何もされないのに放出してしまいそうだ。
切なげな甘い、自分の喘ぎを遙は聞く。
男は遙の背中を抱いて、ふたたびゆっくりとベッドへ横たえた。
遙の腰を持ち上げ、結合を深める。
「ああ…っ」
男が遙の昂ぶった前方を握り締め、先端の精の出口を指で押えた。
そうして、腰を激しく使い始めた。
握られているそこが、男が動くたびに摩擦で擦れ、充血していく。
もう少しの刺激で溢れ出しそうなのに、堰き止められ、物狂おしさに身体じゅうが震える。
「遙」
男が名を呼ぶ。
***
高校生の時、女の子と付き合っていたことを思い出した。
向こうが告白して来て、付き合うようになった。彼女はヴァージンだったらしく、抱こうとしたら、痛いと拒絶された。
彼女の中に入ったのかどうかも分からない。彼女が痛いふりをしただけだったのかもしれない。
女の気持ちが遙には分からなかった。
女の子と付き合ったといえるのはそれくらいだ。
なぜ彼女は自分に告白したのだろう。
好きだと言われて嬉しくて、それで付き合ったように思う。
初めてのSEXも、彼女が言い出したことだった。抱いてと言われて、それで…なのに…
「遙はここに泊まれ」
遙の汚れた身体をきれいにしたあと、男が言った。
「明日休みやろ」
ほんの少しの間まどろみ、夢を見ていたのかもしれなかった。
自分で始末をしようと思ったが、身体がだるくて手さえ動かすのがままならなかった。男のされるままになった。
「…お兄さんは…」
やっと、声を出した。
「ワシは帰る」
「…」
「ここはお兄さんの別宅や。本宅に帰らな」
それでも、男はベッドから動かず、遙の横に寝そべっている。
「…本宅…って、どこ…」
「南や。…南言うても京都の南区やけどな」
疲れて、頭が回らなかった。今にも眠ってしまいそうだ。
「遙は、抱くと身体が染まるんや。…汗ばんで、しっとりして来て、肌が吸い付くようや。とくに背中が…」
そう言って、男は遙の背中に唇をつけた。
「…お兄さん」
眠気と戦いながら、応える。
「…男にそんなことを言っても、…効果はないです…」
「そうか? …遙の顔は正直やぞ。全部顔に出とる」
鈍い頭で考える。自分の顔は、どんな風に男に映っているのだろう。
女の顔だと、男が言っていたような気がする。
今も、そうなのだろうか。
ぼんやりとした頭が思考を拒否する。
「そや、21日に昼ごろに迎えに来る。空けとけ」
「…昼?」
無理矢理命令される。こちらの都合も考えずに。
その日の自分の予定がどうだったのか、何も今は分からない。覚えていない。一生懸命思い出そうとした。
けれども脳髄が痺れたようになっていて、懸命に思い出そうとすればするほど、思考は遠のいた。
そのうち頭脳の回路がショートして、記憶が途切れた。
この部分、ものすごく時間がかかりました。何度も書き直し。
エッチも予定にない部分。
本当は、男が女に強いということと、安が安田という本名だということを書きたかっただけで(^_^;)