Review

新潮社

美しき野獣
Histoires de ma vie

1977年

ジャン・マレー
石沢秀二・訳

新潮社

07/6/30

ジャン・マレーという俳優を若い人は知らないだろう。私も知らない。

わずかに、「ファントマ・危機脱出」などのファントマ・シリーズに出演していたという噂を聞いたことがあるくらいだ。

だが、実はフランスの有名な美男スターであり、格調高い演技と美貌で、アラン・ドロン以上に世界中で賞賛された俳優だった。

そのジャン・マレーの自伝がこの本で、おもにフランスの作家・ジャン・コクトーとの交流についてを綴っている。

本が発売されたのが1977年、ジャン・マレーは1913年生まれ、コクトーは1963年に死んでいる。コクトーの死後、マレーの晩年に書かれたものである。

 

ジャン・コクトーの名前も、知らない人も中にはいるだろう。

詩人・作家、画家、そして舞台演出家、映画監督と、多彩な才能を持ったフランスの芸術家で、早熟な才能で戦前から戦後の時代にかけて一世を風靡した。

このコクトーに見出されたのがジャン・マレーであった。

もちろんコクトーはホモで、マレーの美貌に目がくらみ、アタックをしかけて成功し、マレーを主演に「美女と野獣」や「双頭の鷲」などを演出、そのほか舞台も手がけ、二人して二人三脚の芸術を完成させた。

言ってみればルキノ・ヴィスコンティとヘルムート・バーガーの関係のようでもあっただろう。

 

この本ではかなり具体的にコクトーがどういう風にアタックして来て、どういう交際であったかが綴られている。結構すごい。

同棲するようになってからは、マレーの部屋のドアの前に、毎日のように短い詩が置かれていたそうだ。

なんとロマンチック。というか、さすが詩人。

コクトーがいかにマレーを愛していたか。しまいにはまるで父親のような慈愛を注いだらしいが、ジャン・マレーは、晩年になってこのコクトーの寵愛を自慢したくなったのだろうか。

それとも死んでしまう前に、自分たちの愛をきちんとした形で公衆に認めさせたかったのだろうか。隠していることが心苦しくなったのだろうか、その愛を誇る気持ちになったのだろうか。

多分おそらく、何一つ隠すこともてらうこともない、真剣で純粋な、至上の愛であったのだと声を上げて主張したかったのだろう。

いずれにしてもそのお蔭で貴重なドキュメントを我々が読めることになった。コクトーがマレーに捧げた未発表の詩も収録されている(コクトーのイラストも)。

もう古い本で絶版になっているので、入手は困難だろう。

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