笠羽汐梨&武蔵坊弁慶 終焉編一 ここに、羽があるのかな?


弁慶、さん?(振り返った時に見えた寂しそうな表情に、いつもの様子が見受けられなかったのか心配するように声を掛ける。もしかしたら知らない内に彼を傷つける発言をしてしまったのだろうか、そう思いごめんなさいと口を開こうとする。だが、肩を竦めて笑い出す彼はいつもと同じに見えて、勘違いだったのだろうかと不思議そうな表情を浮かべる)……弁慶さんってば、そんな事しなくてもあたし笑いますよ?(相手の言葉に笑って返すが、次の言葉にはどうしたのだろうと首を傾ける。やはりいつもと違うようで…再び、何かしてしまったんだろうかという思いが募る)
…あたし、この世界にきて…弁慶さんと一緒に居て、楽しいですよ?からかわれて悔しいと思ったこともあるけど、でも悔しさよりも楽しさの方が上です。逆に、比翼に感謝したいくらいです。消えるかもって思った時は怖かったけど、でも弁慶さんと一緒なら大丈夫じゃないかって。弁慶さんの事、信じていますもん(にこっと笑っての言葉。過去形にしないのは、自分自身が嫌だから。最後に、だから寂しい事言わないでください、と付け足して)

(歩きながらも内心は複雑な思いで一杯だった。やっと帰れる、と思えば勿論嬉しくないはずがない。それでも、心残りがないと言えば嘘になる。正直、まだ彼と居たかったとさえ思ってしまう。それでも、もし今帰れるとしてそれを逃せば次はないのかもしれない――そんな取りとめもない事をぐちゃぐちゃと考えてしまう。
清水寺が見えてくれば、今まで相手を引いていた手を離して見えた梅の木へと駆け寄る。それでもまだ覚悟は決まらないのかそこから特に行動を起こす事も無く、貴方が此方へ来るのを待っている)


(もうこれ以上彼女を傷付けてはいけない。そう思うと、木に近づきながら口元は自然な笑みを刻んだ)
ええ、分かってはいるんですが。どうしても口が勝手に動いてしまうもので。(困ったように笑って見せて、あやふやにしようとすれば、相手の言葉を耳に入れ不意に真剣な表情でその話を聞き)
……汐梨さん、ありがとうございます。君からそんな言葉を頂けるとは、思ってもみませんでした。
(そう言って微笑んだ顔は既に決意の固まった表情だった。もう、余計なことは考えず、最後のこの一瞬一瞬を思い出に刻むようにして)すみません。僕としたことが、君を戸惑わしてしまったようで。
それでは、探しましょうか。……この木の辺りに必ずある筈です。(相手から目線を外し、木を眺めながら幹に手を添えて考え込むように周りに視線を漂わせた)

(――これでいいはずだ、ひたすら心にそう言い聞かせて。蕾のままの梅の花を見上げて、いい加減に見切りを付けられる術を探した。傾き始めた日が、高い枝を照らす。すると、そこに何か光るものが見えて)
……汐梨さん、あれを見てください。(その発光体を指差し、もしやと嬉しそうな笑みを浮かべて見せた。まさか、こんなに簡単に手に入るとは夢にも思わなかったけれど)


(キラキラと輝く光が、そのものを包み込んでいた。
木の枝に引っ掛かる様に浮かぶ、光の球体がまるでそこだけが異次元であるかのように不思議な七色の光を放っている。そして、それが段々形を表して、鋭くも滑らかで彫刻のような美しい羽になる。――すると、傍から金色の光を放った人の形が現れて)……よくぞ、羽を見つけたな。我も例を言おう。しかし、しばし待て。異界の浮浪者よ。お前は、本当にこれを手にして満足か?今のままで、お前の願いが本当に叶うとでも?
(急に少女を制止するような不可解な言葉を放つ。そして、懐にスッと手を入れると不思議な色に輝く鎖のついたネックレスのような石を取り出し掲げて)
時空を超えたいと言うのならば、これを使えばよい。
この石の力を持てば、お前を異空に帰すこともできる。ただし、そこの若いのには下がってもらわねばならぬが。(口角を吊り上げると、少女に向かってそれを差し出した)


…いいですよ?勝手にって事は、本心かもしれないでしょう?だから、それなら嬉しいですもん(困ったように笑う貴方とは対称的に笑顔を浮かべて)
だって、本当の事ですから。楽しくて、ずっとこうだったらなって思った事だってあるんですよ(発した言葉は紛れも無い本心。だからこそ、帰るか否かを悩んでしまうのも事実だが)大丈夫です、気にしないでくださいね(笑みを浮かべてそう答える)
あっ、そうですね(貴方の言葉に慌ててそう答える。同じように、キョロキョロと辺りを見回して)

(示された場所を見れば、光るものを発見してどこかほっとしたような表情を浮かべる。それでも、まだ"帰る"という決定を下せずにいる事に戸惑いが込み上げてきて。羽の傍らから現れた人物は、既にもう何度か目にしている姿)
比翼…(その姿を見れば、帰れるのか、――帰らなければいけないのか、という思いで一杯になる。だが、次に問われた言葉にはその思考を中断させて)
…わからないけど、帰りたいと思わないわけじゃない。でも、…まだ、戸惑ってる。本当に帰っていいのかなって。…後悔しそうで、決められない。
(石を差し出されれば、それに手を伸ばすが不自然に途中でその手は止まる。様子を伺うように傍に居る貴方へと視線を向けて。それを逸らし比翼へと向ければゆっくりと言葉を発する)
………この、世界に残るって選択もいいんだよね…?弁慶さんの、傍に居たいって…そう決めても、いいんだよね……?(揺らぐ瞳と言葉を比翼へと向け確かめるように問い掛ける。このまま帰ったら後悔する、既に自分の中でどうするか決定させたように紡ぎ)
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(本心かもしれない、その言葉には虚を突かれ、思わず驚嘆を表情に浮かべたが、それが決して自分に不快感ではなく、むしろ安心と喜びをもたらすことに微笑んだ)
ええ、そうですね。君と過ごした思い出は、僕も一生忘れませんよ。

(羽を見上げれば近づいてくる分かれにフッと目を細める。しかし、突然現れた比翼に対しては、驚き一歩下がって話を聞いていたが、黙って聞いていく内に、どんどん表情が険しくなっていく。少女が石を手に取ろうとしたのには驚き、警戒したが、それが後僅かな距離で触れなかったことに安堵して。そして、また少女の答えを聞き、苦々しい表情をかき消すと、その前に立ち塞がり)
少し待ってください、汐梨さん。……僕が、先程言ったことを覚えていますか。君の純粋な気持ちは認めます、それに、君の選ぼうとしてくれた選択は、僕も望んでいたことです。ですが……。
(皆まで語らず悲しげに眉を顰めると、比翼を振り返り、恐ろしいほど冷静な瞳で相手を見つめる)
おかしいとは、思いませんか。今まで散々絆を上げるように言っておきながら、やっと羽を見つけて手に入れるまで後一歩という直前に、突然現れてそれを覆すだなんて。……僕はとても、それがあの人を思う比翼のすることは思えません。それに、宝珠の力が無くなった今でも、微かに感じることができます。貴方から漂う、邪気が。(そこまで言うと、完全に比翼に向き直り相手を睨み付けて言った)貴方は、比翼ではありませんね。


(じっと少女の言うことを聞いて、石を差し出したまま直立不動でいたが、問われた少女に返したのは、冷淡な答えだった)……ならぬ。ここに残るためには、羽の力を要す。しかし、お前は元よりこの世界に居るべきはずではない者。これ以上ここに留まることは許されない。そのような甘い幻想は捨てて、この石の力でここから居なくなれ。(そこには、無表情ながらも確りと少女の事を考えていた幻獣の姿は影も形も無かった。そして、鋭い瞳で少女を見下ろしていたが、青年の言葉に顔を上げ)
……フッ、突然何を言い出すかと思えば。(否定しかけたが、その後に続いた根拠には黙り込む。しかし、突如態度を変えて笑みを浮かべる。それは、口が裂けそうなほど左右に広がった比翼としてはありえない笑みだった)……中々察しがいいな。如何にも、儂はあのような軟弱な幻獣とは違う!(そう言い放つと、禍々しい気が辺りに集まり、見る見るうちに体の形状が変化していく)


(形を変えて現れたのは大きな黒い妖孤。沈みかけた真紅の夕日に、黒光りする毛と笑みを浮かべたときにのぞく鋭き場が不気味に光る)
儂は、齢千年を超える大妖孤。比翼の羽を手にしようとここまでやってきた。だが、生憎お前達が邪魔だったものでな。少しばかり手荒いが、消えてもらおうと、わざわざあの青二才に成りすまして来てやったのよ。
(怪しげに恐ろしいことを語る口調は実に軽いものだった。そして、歩き出すような自然さで攻撃の構えを取る)……去ね。


ひよ…く?(今までの態度とは違う比翼に、驚き戸惑いの眼差しを向ける。少なくても、今まで自分の前に現れていた比翼ならこんな答えはしない筈。向けられる鋭い瞳に、伸ばしていた手を引き胸元の辺りで伸ばしてはいなかったもう片方の手で覆うように握る。未だ困惑の表情は比翼に向けられていたが、目の前に貴方が立てば不安そうに見遣る)
弁慶さんが、言ったこと…?
(問いかけるが、思い当たる節はあるのか俯く。貴方の言葉を聞き…そして比翼へと掛ける言葉にはびくりと肩を震わせ驚きゆっくりと顔を上げる。その内に、比翼だと思っていたものが黒い狐へと姿を変えれば、驚愕を露にする。同時に、浮かんだのは自嘲的な笑み)
狐…って、さっきのは、嘘だったんだ…。弁慶さんに、何度も言われてたのに…バカみたい。結局騙されそうになるなんて、
(一度言葉を区切れば、睨むように狐を見る。それは、騙された事に――というよりも、狐の言葉、攻撃の構えを取る事に対してで)
っ…だめ、弁慶さんを傷つけるのだけは、だめ。そんなの、絶対にだめ…!
(咄嗟に貴方の前へ出て庇うように貴方にしがみつく。これ以上自分の事で迷惑を掛けたくない――そんな思いからの行動。尚も狐を強く睨み続けるが、振動でリン‥と鳴った音に気づき、ソレを取り出す。ソレは先日彼に渡された鈴。祈るような気持ちでその鈴を握る。少しの振動でも、鈴は涼しい音を奏でる)


(驚愕し落胆している様子の相手を見やって、そっと柔らかい声を掛ける)
……いいんですよ。汐梨さん、僕はいつまでも君がそのままで、人を疑わない優しい君のままでいてほしいと思っているのですから。(悠長な言葉を言いながら、スッと相手に悟られないように懐から短刀を取り出す。柄に手を添えると、再度狐を睨み付け)
ですが、同じぐらいに僕は許せないんですよ。その優しさに、漬け込もうとする輩がね。
(できれば彼女には戦う自分の姿など見せたくなかった。そう躊躇いながらも、構えに入っている狐に向かっていこうとする。しかし、それはしがみ付いて来た少女によって足止めされ)……っ!汐梨さん?
(不思議そうな表情で少女を見やれば、リンと奏でられる鈴の音。それを見れば、更に驚いて)
それは、破魔の鈴……。まさか、至智の君が仰っていたのは、このこと……。(独り言のように呟きながら、これが果たして効果のあるものなのか、見守ることにした)


(青年に向かって勢いよく飛び掛った時、見えない壁に阻まれて弾き飛ぶばされる)
グァッ!……貴様、何故その鈴を。忌々しい、比翼め。どこまでも儂をコケにしよって!
(言いながらも、鈴の音色が放つ力によって苦痛を表す。すると、突如辺りがまばゆい光に照らされ、何も無かった空間から新たな人影が現れたのを見て驚嘆する)……おまえはっ!


(光の中から出てきたのは長い金髪を靡かせた、紛れもない比翼の姿。相変わらずの無表情だったが、そこには微かな安堵が滲み出ていた)……どうやら、何とか間に合ったようだな。私の力の宿るその鈴、そなたに託しておいて正解だった。そなたが、あの石を掴もうとした時は、流石に狼狽えたぞ。決してあれに触れるな。あの石は冥界の門。触れれば異界とは言えど、黄泉に吸い込まれる。……私が、かつてあの妖孤と共に封印したものだ。
(少女を見つめながら話し終わると、振り向いて狐を凍るような冷たい視線で見下ろした)
さて、そなたに何を言いたいか、分かるな?大人しく比叡に篭っているなら見逃してやろうとも思ったが、京に降りて来た以上は容赦せぬ。……確かに、比翼にも叶えられぬ願いはある。しかし、私の名を騙る不届き者を滅することは容易い。退くか、このまま消えるか選ぶがいい。(凄まじい気を放ちながら威圧的に妖孤を見下す)
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