ベランダの窓から日差しが差し込んでくる昼下がり、と高遠はそれぞれの時間を楽しんでいた。
高遠はラグマットの上に片膝を立てて座りながら、に借りたノートパソコンをいじっていて、
一方彼女は、高遠の後ろにあるソファに深く腰掛け、彼越しに録り溜めていたドラマを見ていた。
クッションを胸に抱え、手にはリモコンが握られている。
ドラマの単調な話の流れに飽きて停止ボタンを押し、テレビの音量を下げた。
パソコンの画面に目をやると、日本語ではない言語が目に入った。
「調べ物?」
クッションを横に放り投げて、体をかがめてパソコンを覗き込むと、高遠が少しだけ顔をの方に向ける。
一度目を合わせただけで、すぐに画面に目を戻した。
「ええ」
「“ええ”」
が高遠の口調を真似して、一人くすくすと笑う。
高遠もまた、マウスを動かしながら微笑した。
「もう癖になってしまったので、話し方は変えられないんです」
「そういう人、身近にもう一人いるから大丈夫。そのままでいいよ」
高遠は一瞬手の動きを止めたが、すぐにまた指を動かした。
は立ち上がって、キッチンへ向かうと、冷蔵庫を開けた。
上から下まで冷蔵庫の中身をチェックして、サイドに収納していたボトルに手を伸ばす。
肘で扉を閉めて、戸棚から2つグラスを取り出すと、そこになみなみと注いで、ボトルを再び冷蔵庫にしまった。
「はい」
がグラスを手渡すと、高遠は「どうも」と受け取って口をつけたが、すぐにグラスを離して怪訝な顔をしながらそこに注がれた焦げ茶色の液体をじっと見た。
「なんですかこれ」
「え?麦茶」
「ああ・・・やけに黒いのでコーヒーかと」
「濃いのが好きなの」
は麦茶をこぼさないようにゆっくりとソファに腰掛けて、グラスに口をつける。
ごくりと喉を鳴らして飲み込むと、高遠がマウスから手を離し、振り返って彼女を見た。
「一人で、住んでいるんですよね」
「うん?そうだけど」
高遠は軽く部屋を見回してから、再び彼女を見上げる。
一人で住んでいるにしては、この部屋は広すぎた。
現に、寝室が一つ余っている。ベッドはないため来客用の布団をひき、高遠はそこで夜を過ごしていた。
「広すぎるよね。なんかね、資産運用がなんたらで、健悟くんに住まわされてるの。掃除が大変だから嫌だって言ったんだけど」
は不服そうに唇を尖らせて、また麦茶に口をつけた。
高遠がグラスをテーブルに置いて、口を開こうとしたときに、電子音が部屋に響いた。
二人同時に、音のした方に目をやる。
キッチンのカウンターに置いていたの携帯が振動しながら無機質な音を鳴らしていた。
は立ち上がって、カウンターにグラスを置いてから携帯を手にとった。
画面を見て、顔をしかめる。「せっかくのお休みなのに」と呟きながら、電話を耳にあてた。
「忙しいんですけど」
「何言ってるんです。どうせ部屋着のままドラマでも見ていたんでしょう」
図星を指されて一瞬押し黙ったが、すぐに反論する。
「もう見てません。何?何の用なの」
「今すぐ着替えて、外に出てきてください」
「今?!」
「ええ。行きたい店があるんです」
「あのさ、私にだって予定っていうものが」
「あるんですか?」
「・・・ないです」
「駐車場にいますから」
また一方的に電話を切られ、は少し乱暴に携帯を置いた。
ふと高遠のほうを見ると、ソファに寄りかかって微笑んでいた。
「呼び出しですか?」
「いつかあの高慢刑事をひざまずかせたい・・・」
「そのときはお手伝いしますよ」
彼女の心からの叫びに、高遠は久しぶりに笑みが自然と溢れだすのを感じていた。
それを見て、ははっとしたように彼の顔を見つめる。
微かではあるが、声を出して笑う彼を見るのは、再会してから初めてだった。
昔の記憶が呼び起こされそうな気がしたが、マンションの下で待っている明智の存在を思いだし、慌てて寝室へ向かう。
あまり待たせると部屋まで上がってきてしまうため、は必死に着替えと化粧をものの10分で済ませた。
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ひだまりの下に咲うよう
14/6/12