Gift
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バイト先についた光は、店長に謝り倒しながら、白いシャツと黒いエプロン姿になり、店番をした。 ぼやーっとしながら、ドアの近くにおいてあるガーベラを見つめた。 もう春だ。冬が終わり、眠っていた動物たちも外に出てくるとき。光は、春を先取りしたように思え、一人で微笑んだ。
その時、ドアが開いた。姿勢を正す。 「いらっしゃいま…」 目の前にいたのは―――あの女。 目はうつろで、手にはサバイバルナイフ。走ってきたのか、長い茶色の髪の毛は乱れに乱れ、山姥のような形相だった。 光は声が出せず、ただ、立ち尽くした。背筋が凍る。 「あなた、私が誰だか分かる?」 「・・・夜の知り合いですよね。」 「……そうね、そうでもあるわ。」 机の角をぎゅっとにぎり、あとずさる。 「私は、山田雪野、聞き覚えないとは言わせないわ。私はあなたの姉なんだからね!」 光の思考は途切れた。目を見開き、歯ががちがちとなる。止める事が出来ず、震えた。店長は帰り、今は一人である。助けを呼ぼうにも夜一人しかいない。 「私は父親に引き取られてから散々な生活を送った。言えないほどのね。当然、家を出たわ。忘れない。冷たい雨の降る日、空腹で倒れていたところを夜のお母さんに拾ってもらったの。私には夜しかいなかった。友達なんかいなかった。私にとって夜は私の全てなの。あなたはそれを奪った。どういう事か、わかるよね?」 女は光に歩み寄る。光は動く事が出来なかった。ハイヒールの音を鳴らし、手にはぎらつく刃物を握り締めて、壮絶な笑みを浮かべ、低い綺麗な声で言う。 「死になさい。」 下腹部に激痛が走る。目がかすみ、地面が近づく。意識が途切れる―――。
急に妙な風が拭いた。嫌な風邪。暗い通路を進むのになんら支障はなかったが、夜は、この先を進むのをためらった。歩くと、黒い前髪が揺れるのが分かる。コツ…コツと、不規則な足音が聞こえた。明らかに自分のものではない。顔をあげると、血まみれの手が見えた。不思議と驚く事はなかった。その手にはサバイバルナイフがしっかりと握られている。見覚えのある服。ゆっくりと視線が上にあがる。疎ましい顔。 目はうつろで、焦点は合っていない。 「夜ぅ。もう私たちのジャマをする者は現れない。ねぇ、結婚してよ、夜・・・。」 そして脳の中で、瞬時に考える。刺された者に該当するのはただ一人。 「光っ…!!!」 知らぬ間に叫んだ名前は、通路に反響した。 無我夢中で、通路を画しった。後ろから高笑いが聞こえ、夜の速度が増し、そして、花屋の裏口に入る。ドアを勢いよく開け、更衣室を見回す。いない。店頭に出ると、人が群がっていた。ばっと一斉にこちらを向く。それを無視し、光のほうへ行く。 顔を青冷めており、息が荒かった。生きている事に、まず安堵した。出血は思ったより少ない。 「光っ!!!光!!」 傍で名前を叫ぶ。すると、微かに動く唇。しんとした部屋で、花に囲まれ、まるで葬式のようだ。 (冗談じゃない!!) 「救急車は呼んだんですか?」 「はい、でも、この込み具合じゃ、ちょっと・・・。」 繁華街はごった返し状態だ。この状態だと、救急車は一向に来れないだろう。 光が危ない。止血は周りの人がしているものの、今の状態では死んでしまう。 「光、少し我慢しろよ。」 光は瞬きて肯定し、夜は血まみれの光を持ち上げた。軽くて細くてやはり女だと思った。 病院まで3分弱。連れて行ったほうが早い。花屋を出ると、力いっぱい叫ぶ。 「どけえぇぇ!!」 交差点を左に曲がる、500m先に、病院がある。 それに行き着くまでは信号を待たなければならない。 時間が惜しい。 青にかわると全速力で、歩道を駆け抜けた。 病院に入ると、看護婦がギョッとした顔でこちらを振り向いた。駆け寄ってくる。息があがってなかなか言葉が出ない。 「すみません、刺されたんです。見てやってください。」 すぐに担架を持ってきて、光は集中治療室に入った。
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