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08 Christmas pudding no hi


 アンビエント照明が大きく瞬き、耳鳴りのような異音を残して消えた。
 4体のデストロンの視覚センサーが、暗闇のそれぞれの位置に高く低く、赤い熾き火を灯した。
 
 床に近い位置のランブルが毒づく。
 「有機生命体め、また停電だ……」
 「なんだ? イルカかウミガメが侵入したって言うのか?」
 きっかり同じ高さのフレンジーは、相方の呟きを言葉通りの意味にとった。
 スカイワープが小さな双子たちのつむじを人差し指で小突き回す。
 「馬鹿言うな。デストロン海底基地は、ナマコ一匹通さねえ鉄壁のセキュリティだ」
 「でも、こないだ宇宙オオグソクムシが通路を走り回ってたぜ」
 フレンジーは指をわしゃわしゃと蠢かせて、形態模写をしてみせた。
 「あれは1匹いると30匹仲間がいる。まるでジェットロンみたいによう」
 「チビの虫ケラならお前らのお友達じゃねえか。おいランブル、状況を報告しやがれ。有機体がどうしたって?」
 ランブルが自分だけ愉快がって訂正する。
 「有機生命体イコールこんちくしょうってことで、意味は無いのさ!」
 「うわどうでもいい。じゃあ停電の原因は?」
 「俺は知らねえよ」
 「早いとこ調査しろ」
 「なんで俺が。そもそもこう暗くっちゃ調べようがないね。スカイワープ、お前ジェット機だろ。ライトかなんか持ってねえのか」
 「お前が目から光線出せよ」
 「やだよめんどくせえ」
 その騒ぎをよそに、4体目のデストロンが抑揚の無い声で眷属に命令を出した。
 「ジャガー、リターン。報告せよ」
 いつの間にか、もう1体のカセットロンが這い寄ってきていた。
 
 床を蹴って跳び上がり、トランスフォームする一瞬、ジャガーの肢体を緑色の燐光がおぼろに包んだ。
 「今、光ったよな?」
 スカイワープがいぶかしむ。
 「静電気だよ。ジャガーは暗闇で撫でたりするとぱちぱち光るんだ」
 何故かフレンジーは得意げだ。
 「馬鹿、除去装置を付けてやれ。中のデータが飛んでも知らねえぞ」
 「まさか。磁気テープじゃあるまいし」
 「えっ。違うのか、お前ら」
 ジャガーに内蔵された磁気テープのようなものが、蛇の舌に似た音を立てて回り出した。
 
 
 サウンドウェーブはジャガーの調査結果を分析し、対応策を取ったうえで、メガトロンへ次のように報告した。
 ここ最近、基地で多発している停電の原因は、光を主食にしている銀河ホタルイカの仕業であること。
 デストロンの行き来によって宇宙からもたらされた銀河ホタルイカが地球の海底の環境に適応し、異常繁殖した結果、海底基地の光源に過剰に反応、興奮した彼らは電力配給ケーブルの被膜のもろい部分に群がりこれを喰い破り、帯電して発光し、ますます数を増していること。
 銀河ホタルイカを追い払い、電力は復旧しているが、イカの数が落ち着くまでの間、彼らを刺激しないために照度の高い照明が使用できないこと。
 現在、駆除作戦を展開中であること。
 
 報告を聞くメガトロンのそばに控えたスタースクリームが目を真っ赤に怒らせていた。
 急な暗転に慣れないうちに迂闊にウロウロしてメガトロンの目の前で盛大に転んでしまったためである。
 「ばーっと焼き払っちまえよ、ばーっとよ!」
 スタースクリームはかんかんになっているが、サウンドウェーブとメガトロンは、銀河ホタルイカの乱舞する窓外を落ち着いて眺めていた。
 「コンピュータに解析させた。光線で銀河ホタルイカ焼く、その光で殖える量駆除の量を上回る、計算結果そう出た」
 「ほう。そんなに繁殖力が強いのか。どうにもおめでたいものだな」
 「それがどうしたってんです。ジェットロンだってエネルゴンさえ足りてりゃあいくらでも殖やしてみせますよ。問題はカラーリングの新しい組み合わせですが。いっそグラデーションにしましょうか。モノグラムはどうです。えっと何の話だっけか」
 「レーザーだのビームだのが使用できないという話だったな。サウンドウェーブ、現在の駆除作業はどうなっておる」
 「一杯ずつソードで切り殺している。また、ボルターのローターでの裁断、そこそこ有効」
 「おいおいまだるっこしいなあ! 毒もみとかなんとか出来ねえのか?」
 「銀河ホタルイカの生態まだ謎多い。毒も薬も不明」
 「まあしばらく、海底ホタル火の見物でも楽しむことだな、スタースクリーム。お前に風流の心があればの話だが」
 「風流? あのゲテモノがぶっかぶっか浮いてるのが? 脚が二十本あるんですよ! 別々に動く、に、二十本の……!」
 スタースクリームが自分で自分の表現に怖気立った。
 すると、メガトロンが、首を傾けてスタースクリームの全身を眺めた。
 「スタースクリーム、お前」
 「なんです?」
 
 フレンジーとランブルが大人しくサウンドウェーブの足元に控えていた。
 彼らは銀河ホタルイカと同じくらいの大きさしかないため、駆除作戦から外されていたのだ。
 「スタースクリームが脚の多い生き物を嫌いだって知ってたら、宇宙オオグソクムシをたくさん捕まえておくんだったな」
 「ああ。こう暗くっちゃ、あのカサコソ走り回る虫どもを探すのは骨だぜ」
 スタースクリームが振り返る。
 「な、なんだそのおぞましい名前のものは!」
 「クソじゃねえよ。愚息でもねえ。具足。ビッグアーマーバグさ」
 「で、でかいのか?」
 「そんなでもないけど。顔くらいかな? 俺たちの」
 「ふん。じゃあ、踏み潰してやるさ」
 「でも素早いからよ。踏まれる前にスタースクリームの脚を這い登ってくと思うけどな」
 
 それを聞くや、スタースクリームのくるぶしから膝頭にかけて、蟻走感が駆け抜けた。
 「あ! スタースクリームが……」
 フレンジーとランブルが声を揃え、呆気に取られてスタースクリームを見上げた。
 
 「なんだってんだよ? さっきから。メガトロン様といい。俺の体に、何か付いてるのか? ま、まさかその」
 そのとき、スタースクリームの首筋に、さわさわと触れる何か細長くて本数の多いものの感触が走った。
 「い、い、いやっ、いやだっ!」
 慌てふためく航空参謀を背後からしっかり押さえ込むのは、彼をくすぐる長い指の持ち主、メガトロンである。
 「うまい具合だぞ、スタースクリーム」
 
 スタースクリームの全身は静電気の燐光に包まれていた。あたりをじんわりと幻想的に照らし出す。
 
 「この明かりならイカどもを刺激せんだろう。便利なものだ」
 メガトロンの指先が巧みにその状態を維持し、スタースクリームの悲鳴が引き攣れる。
 「ああああっもう、馬鹿はやめてください! は、放して! サウンドウェーブ、静電気除去スプレー噴射だ!」
 サウンドウェーブは肩口のボタンを操作する。
 「ジャガー、イジェークト。帯電せよ」
 ジャガーがスタースクリームに飛び掛かった。
 
 ばちんと音を立てて放電が起こる。青白い火花が撒き散らされ、スタースクリームがギャッと叫び、クリスマス・プディングの火のような明かりがジャガーの全身を包んだ。
 
 光るジャガーは床に優美な弧を描いて歩いてみせた。
 彗星のように美しい。
 「ジャガー帯電する。表面に微弱な斥力生じる。触り心地良い」
 「ほう」
 メガトロンはスタースクリームを放し、ジャガーの背中を撫でた。
 「これは見事な電気コートだな」
 
 「サウンドウェーブ、お前、その、なんだ、覚えてろよ」
 スタースクリームが恨み言を呟いている。電撃の恨みなのか、やっかみなのか、大帝からあえなく分離させられた不満なのか、双子のカセットロンは首を捻る。
 しかしサウンドウェーブは、スタースクリームが自ら要求した身柄の解放と、メガトロンが便利だと言った照具の提供の両方を達成できたのだから、
 「何も問題は無い」
 と応えた。
 ジャガーも満足そうだ。
 
 
   終

2007/08/24
 オオグソクムシ(の地球産のやつ)は深海の水中で泳ぐのは速いけど、陸上を走ったりはしないそうです。
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