ヒトは儚く、強いもの・・・











強く儚い者たち・・・十弐











子供が泣く。 子供が啼く。 子供が鳴く。 それは哀しい事。 それは悲しい事。 それはカナシイ事。 『誰ガ子供ヲナカセテイル?』 こんなにも必死に。 こんなにも大きな声で。 悲しそうに。 寂しそうに。 辛そうに・・・ 嗚呼、子供が名前を呼んでいる。 必死に名前を呼んでいる。 『誰ガ子供ヲナカセテイル?』 涙は枯れる事もなく、只溢れ続けるばかり。 一つの名前を呼び続け、次第に声は枯れて行く。 それでも名前を呼び続け、何時しか疲れて眠りに堕ちる。 その姿を、見詰める双方の瞳。 明るい臙脂に近い茶の瞳。 只冷たく。 只冷え冷えと。 只、空を見るかの様に。 『嗚呼、ドチラモ可哀ソウ。』 ―――何故ソンナニモ、欲シガルノ? +++ 「良く無事に帰って来てくれた。ゴロベエ。」 「ハ・・・。」 向き合うのは、二人の男。 カンベエとゴロベエ。 それを見詰めるのは、一人の男。 シチロージ。 「して・・・“カナイ村”はどうなった・・・」 「只今、死物狂いで探している模様。 直にこの村にも刺客が訪れるでしょう。」 「・・・避けられない事だな。 二人共、この事は内密にしろ。 誰の耳にもいれるな。」 「「承知。」」 カンベエは、ハァ・・・と溜息を吐いた。 「悲しい事よ。 古の言葉を忘れた、“カナイ村”の長は、 何故に“あの子”に執着するのか・・・。 矢張り、“外の者”とは接触してはいけなかったのだろうか?」 「カンベエ様・・・。 もう、“あの子”も“カナイ村”も“外の者”では・・・」 「この村から外は全て“外の者”だよ。シチロージ。」 カンベエは薄く笑った。 「祖先が、離別を決めた時から、“カナイ村”はもう“外の者”だ。」 「だが、此処で後悔しても仕方があるまい。 これからの事を考えた方が得策だ。 そうだろう?カンベエ殿。」 「そうだな・・・。」 「全ては、もう決まっているがな・・・。」 +++ 夕方。 そこは臙脂と赤が混ざった世界。 それはとても美しく。 それはとても狂気的。 そんな中、二人は椿の庭の中に居る。 そこは矢張り“あそこ”に似ていると、ヘイハチは思った。 今は、一体どうなっているのだろうか・・・。 自分を探しているのだろうか? もうとうに諦めてしまっただろうか? そうだと嬉しいけれど、胸がとても苦しい。 嗚呼、何故・・・ ヘイハチは、キュウゾウを見上げた。 白い肌は赤に染まり、赤い衣は夕暮れの赤を吸収する。 全てが赤い世界。 椿達は狂気に満ち、まるで“あそこ”の様にも見えた。 赤い花弁に、夕暮れの赤。 まるで叫び声を上げているかの様・・・。 悲しそうに辛そうに眉間に皺を寄せると、下を見た。 土の上にも、赤が張り付いていた。 何故か、それが恐ろしい事の様に思えた。 スッと・・・冷たい手がヘイハチの頬に触れた。 静かに上を向かせられ、 キュウゾウのこの夕暮れの赤にも負けぬ赤い瞳が、 ヘイハチを真っ直ぐに見詰めた。 「辛いのか・・・。」 キュウゾウの声を聞くと、涙が込み上げてきた。 「いいえ・・・いいえ・・・っ」 必死に、堪える。 まるで、子供に戻ったかの様な錯覚。 何故、こんなにも胸が苦しいのか。 何故、こんなにも辛いのか・・・。 どうして・・・ どうして・・・ こんなにもキュウゾウと居る事が嬉しいのだろうか―――・・・ 数日間しか時間を共にしていないのに。 まるで無くしていた半身を取り戻したかの様に、 身体が歓喜を訴える。 耐え切れず、涙は溢れ出て、キュウゾウの手をも濡らした。 如何して、こんなにも・・・ キュウゾウが恋しいのだろう―――・・・ 温かい腕の中に、抱き締められる。 全てを飲み込む赤よりも、この己を包んでくれる赤。 まるで、子供に戻ってしまったかの様に泣いているヘイハチ。 そんなヘイハチを、キュウゾウは只黙って抱き締め続けていた。 もう直、あの月が現れる・・・ +++ 次の日、『清光祭』の準備が始められた。 村の端々に、装飾物を付けていく。 それを指示するのが カンベエ・ゴロベエ・シチロージ・キュウゾウ・カツシロウだ。 村人達は楽しそうに準備をしていた。 『俺様もやる!』と指示役をやろうとするが、 カンベエがそれを止め、今は大きな装飾物を飾り付けている。 ヘイハチも、村人に交ざり、準備をしていた。 最初、準備を手伝う事を言い出したヘイハチを止めたのはシチロージだった。 「病み上がりなのにそんな無理をさせられませんよ。」 それを止めたのはゴロベエだった。 「良いではないか!身体を動かす仕事が駄目ならば、 小さな装飾作りを手伝って貰えればいい。 まぁ、そうなると女達と一緒にやるという事になるんだがな。 どうだ?ヘイさん。」 シチロージがヘイハチを“ヘイさん”と呼ぶ事を知ってから、 ゴロベエもそれにならい、“ヘイさん”と呼ぶようになった。 「構いません。 どんな仕事でもさせて頂きます。」 ニッコリと笑みで言われ、 シチロージはやれやれと降参という風に両手を上げた。 「ゴロさんとヘイさんには勝てませんなぁ。」 その一言に笑い声が起きた。 「そうと決まれば早速仕事だ。 キュウゾウ・・・だけじゃ言葉が足りんか。 シチロージ、御主女達の所に案内してやれ。」 シチロージは笑顔で案内役に回った。 +++ 女達の仕事場。 ザワザワと、何やら騒がしい。 一部に人が集まり、黄色い歓声が上がる。 「ヘイハチ様は器用だなぁ〜」 「オラこないに上手に出来ないだよ。」 「ほら!この花なんか本物みたいだ!!」 ヘイハチは女達に囲まれながら、照れ臭そうに頭を掻いた。 「いやぁ〜そんな凄い事ではありませんよ。」 女達はキャーキャーとはしゃぎながら、 ヘイハチの作る装飾物を絶賛した。 「んな事ねーだ!なぁ?」 「んだ。オラこんな上手に作る人初めて見ただ。」 「御粗末様です。」 「ほら皆―!ご飯の時間だよー!!」 中年の女が、声を張上げて皆に言った。 はーい!と皆一斉に立ち上がる。 「ヘイハチ様も行こう。」 「ご飯無くなっちまうよ。」 「はい。」 ヘイハチも、女に交ざり飯を食いに立ち上がった。 「うまい!!」 女達は、ヘイハチの声に吃驚するも、 嬉しそうに笑顔を浮かべた。 「そうだべ?そうだべ?」 「えぇ、本当にこの村のお米は美味しいですよ!」 ヘイハチは、昨日カンベエ達に言った事を言った。 それを聞くなり、女達は嬉しそうに頬を染め、 キャーキャーと騒ぐ。 如何やら、ヘイハチが手伝わせて貰っているグループは米担当の様だ。 自分達の作った米を褒められて、女達は嬉々とヘイハチに米を装った。 「こんな美味そうに米食ってくれるお人初めて見ただ〜」 「この村の男共は米を食べるのが当たり前だって思ってるからな!」 「確かに野菜や家畜もオラ達当たり前に食ってるけどよ。」 「それでもやっぱり自分達が作った米を褒めてもらえっと嬉しいなぁ〜」 「んだなぁ〜。皆他の担当が作ったモンなんかあんま褒めねぇからなぁ。」 ヘイハチは女達の言葉を楽しそうに聞いていた。 “あそこ”では、こんな風に話を聞く事はおろか、 話す事も出来なかったのだ。 しかも何かを作り、皆で飯を食う。 とても楽しい事だと思った。 (楽しいなぁ。) (女達も、男達も、村人全員がこんなにも楽しく暮している・・・。) (嗚呼、こんな村に生まれたかった。) (楽しい。) ―――只子供の様に微笑んで、只子供の様に飯を食い、只子供の様に泣ける事のこの喜び。 【強く儚い者たち・・・十弐・続】 後書き 漸く『清光祭』の準備が始まりました。 これを機会に、ヘイさんを村の人と仲良くしてもらおうという腹です。 というか、おなご達と仲良くなっちゃってるよ! ヘイさんは何時でも何処でも器用であって欲しい。 矢張りヘイさんは米ですな。 2006年2月1日 21時18分





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